インフルエンサーならぬ珍フルエンサーの「栗美」が、珠玉の“珍”トピックを「Chinstagram」にアップする連載。今回は野球界のレジェンド、落合博満氏のバッティングフォームの魅力を語る!
落合氏のBF
読者の皆さん、おはよんにちんわ~! 珍フルエンサーの栗美です。最近、日本プロ野球唯一の3度の三冠王を達成した落合博満氏がYouTubeチャンネルを始めたんだけど、皆さんは観てるかしら? 実は私、落合氏のバッティングフォーム(以下BF)が好きで、エレベーターに一人で乗ってる時は必ずと言っていいほど、その真似をして架空のバットを振り込んでるの。今回はその珍フルスイングな魅力を語るわね~。
まず何と言っても、第一の魅力は構えがゆったりしてて、力の抜けた余裕をまとってるところ。これは一つにはいわゆる神主打法1なので、最初にバットを構えるのが体の正面になるからだと思う。多くの打者はバットを後ろに引いて構えるんだけど、それだと最初から振ってやる感が出すぎて、どうしても力んだ印象になりがち。やっぱり強打者って、悠々と迎え撃つ風格があってほしいの。そしてもう一つには予備動作として、投手が投げる前に、バットをベース側にゆらりと倒したりする所作の効果。私も子供の頃に野球をやってたんだけど、投手が投げるのをじっと待ってると、どうしても構えが硬くなる。でもヒッチやコックって呼ばれるような、バットを動かす予備動作を入れると、その流れのまま、スムーズに振っていけるの。しかも落合氏はその予備動作がカッコいい。ただその分、始動を早くしないと振り遅れるので、それは落合氏も技術上の留意点として挙げてる。
そして第二の魅力は狙い澄ましたように、球を引きつけて打つところ。日本の打者って投手側の足を高く上げて打つ人が多いと思うんだけど(メジャーに行くと動く球や速球に対応するために上げなくなる人も多いけど)、落合氏は踵だけ上げた、つま先すり足に近いような踏み込み2なの。しかも踏み込みって言ってもその時、体重はほとんど捕手側の右足に残ってる。よく「球を呼び込んで打て」とか言うけど、足を高く上げて踏み込むと、重心が前に行きがちになるし、ダイナミックな分、アスリート感が出ちゃうのよね。でも落合氏の場合、すり足気味で決して突っ込まないから、バットさばきの技術で打ってる感じで、軽く振ってるような印象さえ与えるの。より職人的というか。
この点に関連して、落合氏は実践知に基づいた技術論を語るのよね。たとえばバットをトップの位置3(バットを後ろに引いて、前へと振り始めるその開始位置)に深く入れる時、投手寄りの腕の肘を伸ばすのが重要なんだけど、これを落合氏は弓の弦を引くのに喩えてる。弓矢を飛ばす時に弦をぐっと引いて力をためるように、投手寄りの腕を後ろにぐっと伸ばすっていうわけ。そしてそのトップの位置から、球めがけてバットを振る時は、それを鞭をふるうのに喩えてる。鞭って持ち手を最初からぎゅっと握り締めたら、手首がこわばってしなやかに振れないじゃない? それに似て、落合氏はバットを小指だけで握る感覚で持って振って、インパクトの瞬間に、全部の指でぎゅっと握るらしいの。力が抜けてる方がスイングが速くなるし、鞭がしなうように、バットのヘッドが遅れて出てきながら走るから、ぎりぎりまで引きつけて打てるのよね456(実際、元ヤクルトの古田敦也氏は、落合氏のバットは遅れて出てくるって証言してる)。
技術って説明できないと知識にならないし、口だけの知識人がいても「じゃあお前、それ出来るのか?」っていう話になる。だから理論と実践が繫がらないと意味ない。そして「しなやかなスイング」とかだと曖昧すぎて空疎だし、「ここを30度の角度で入って、そこから5度変化させて」とかだと機械的に精密すぎて、実践には適さない。実際、イップスになる人って細かく考えすぎる傾向があって、脳科学的にも、精密な動作を追求しすぎると、精緻化されていた脳の身体マップが限界を超えて壊れて、シミみたいになっちゃうことがあるらしいの。だから「肘を伸ばす」「打つ瞬間にぎゅっと握る」っていうシンプルな技術的特徴、さらに「弓を引くみたいに」「鞭をふるうみたいに」っていう具体的な運動イメージ、これらが実践知の言語化として、非常に優れてると思うのよね。
もちろん私たちは三冠王にもホームラン王にも海賊王にもなれないわけだけど、草野球やバッティングセンターでも素人なりに技術は磨けるし、何ならエレベーターの中で一人、架空のバットで素振りするだけでもいいじゃない?
そーゆーわけで皆さんもお気に入りのBFを見つけて、是非職場や街中で素振りしてみてね。そして心の中でいいね&フォローよろしく。合言葉は#Oh珍々!
小説家・木下古栗がUOMOで連載!