2019.10.24
最終更新日:2024.03.07

10月25日公開! 偉大な女性ゴッホ収集家を通して巨匠の魅力を描く『ゴッホとヘレーネの森』

最近笑ってないかも、泣いてないなというおじさんのために、週末公開の心動かす注目映画を紹介するコラム『40歳男子はコレ観とけ!』。今回紹介するのは、フィンセント・ファン・ゴッホの作品を集め、美術館まで作ったひとりの女性を通してゴッホの人生と作品の魅力に迫ったアート・ドキュメンタリー!

10月25日公開! 偉大な女性ゴッホ収集の画像_1

目に見える真の姿形を求め描き続けたゴッホと 心で繋がる女性コレクターの人生を描く

美術史において最も偉大な画家の一人とされるフィンセント・ファン・ゴッホ。その死後、ほぼ無名だった彼の作品に出会い、個人コレクターとして最大規模の作品数を収集したのは、ある一人の女性だった。オランダ有数の資産家であったヘレーネ・クレラー=ミュラーは、彼の絵から得られる感性と生き方に共感し、約300点ものコレクションを所有し、やがて美術館を立てることを決意する。出会うことがなかったゴッホとヘレーネの人生をなぞりながら、後世に残された彼の傑作の魅力と彼女の偉業に迫る。

10月25日公開! 偉大な女性ゴッホ収集の画像_2
本作は、ゴッホの作品を収集し、美術館まで設立した女性を通して、フィンセント・ファン・ゴッホの人物像と作品に迫るドキュメンタリーだ。アートと対峙した時、どう受け取るか、どう感じるかはその人に委ねられている。しかしながら、作り手がどんな人生を歩み、何を考え制作したかを知ってからでも遅くはない。むしろ、芸術家と近い目線に立ち、作品がより味わい深くなる可能性があるのだ。4人の子供の母でもあったヘレーネは娘の教育のために、画家で美術評論家のヘンク・ブレマーが開く美術鑑賞教育講座に参加した際、ゴッホの作品に出会い、美術に傾倒していく。そして、当時名が知られていなかったゴッホの絵を早い時期に集め始めた。ゴッホはかつて「人物画や風景画で表現したいのは感傷ではなく、深い悲しみだ」と語っているが、ヘレーネはゴッホの絵から受け取る安らぎや慰めを感じ、それを人と共有したいという考えがあったようだ。
10月25日公開! 偉大な女性ゴッホ収集の画像_3
ゴッホの出身地であるオランダでゴッホ研究に従事する専門家やクレラー=ミュラー美術館のスタッフの証言を織り交ぜながら、ゴッホの作品の魅力とヘレーネの偉業に迫るのだが、その道しるべは絵画だけではなく、それぞれが家族や知人に宛てた膨大な手紙にあった。2人の共通点は2つ。ひとつはかなりの筆まめであったこと。その時の感情を閉じ込めた手紙の文面から、ゴッホが修行時代に素描画から自殺直前まで変化し続けた作風や筆致をひも解くことができる。耳切事件や拳銃自殺などの鬱屈した感情に苛まれていた一方で、事物の本質を見抜こうとした彼のピュアな精神性が見られるのも本作の魅力だ。そして、もうひとつの共通点は、それぞれ死後に評価されたこと。ヘレーネは、自身の財政難など紆余曲折を経て、ゴッホの神聖な魂を崇める神殿として広大な国立公園の中にクレラー=ミュラー美術館を建てた5ヶ月後に亡くなった。生涯ですれ違うことがなかった2人の人生が交差した奇跡の場所に、今日も世界中から人が集まる。人生に影響を与える感動がどこに潜んでいるかわからない。だからこそ、美術館に行ってみよう。そんなことを思わせてくれる珠玉のドキュメンタリーだ。

『ゴッホとヘレーネの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝』

監督:ジョヴァンニ・ピスカーリア
出演:ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ
2019年10月25日より、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
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『ゴッホとヘレーネの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝』公式サイト

Text:Hisamoto Chikaraishi

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