2019.10.18

10月19日公開! ブラックユーモア溢れる予測不能なヒューマンドラマ『アダムズ・アップル』

最近笑ってないかも、泣いてないなというおじさんのために、週末公開の心動かす注目映画を紹介するコラム『40歳男子はコレ観とけ!』。今回取り上げるのは、更生プログラムで教会にやってきた前科者のアダムが、風変わりな牧師のイヴァンたちとともに驚くべき濃厚な人生の試練を経験する感動作!

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神に抗うならず者が暴いたのは 奇妙な牧師と罪人の暗い過去と眩い奇跡

仮釈放されたアダムは、更生プログラムで田舎の教会へ送られる。牧師イヴァンは彼を快く迎え入れ、ここで取り組む目標を聞くが、ガチガチのネオナチ思想に染まったアダムは神も人も信じず、「教会のリンゴでアップルケーキを作る」と適当に答える。ここに住む前科者で中東系移民のカリドとメタボ男のグナー、実は悲惨な人生を歩んできたイヴァン…。「この教会はどこかおかしい」と気づいたアダムは、イヴァンの自己欺瞞を暴こうと追い詰めていく。そして、まるでケーキ作りを妨害するかのように、災いが教会や彼らに次々と降りかかってくる。

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他人とは違うという自分らしさや、現実で直面する抗えない葛藤や、日常生活と隣り合わせに存在する理不尽さなど、時代や人間関係の機微を映し出した秀作が生み出されている北欧の映画。各国の色や特性を十把一絡げに考えることはできないが、これらを描くエッセンスのひとつとしてブラックユーモアが使われる。本作は、とにかくブラック、だけど最後に観る人の心に一筋の光が差す特異な物語となっている。
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片田舎の田園風景で出会った牧師のイヴァンと前科者のアダム。二人の交流を通して心の成長を描く群像劇…なんてキレイなものを想像する楽しみは序盤で終わる。他人に心を許さず、自分のことを悪党だというネオナチのアダムが、この物語の中で一番まともな人間だと気づくからだ(同居人のカリドとグナーや、教会を訪れるサラは苦しみを抱え、クレイジーな振る舞いをする)。病的とも言えるポジティブなイヴァンの異常な言動にアダムが気づく頃、観ている我々も徐々にヒヤヒヤしてくる。あえて言葉に出して指摘するほどでもない違和感や慇懃無礼な姿。最初に聖職者とタグ付けしてしまったが故に、人間的安全圏に置いてしまっているが果たして…。「なんかおかしいけど、みんなどう思っているのだろう」と劇場を見渡したくなるほど不可解で、観客一人一人に等しくじりじりとしたスリルがのしかかってくる。しばらくしてイヴァンの隠された人生と運命が露になるが、それはともに奇跡を感じるほど痛々しくドラマチックなのだ。
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本作は、旧約聖書の「ヨブ記」と「アダムの林檎」の寓話を主な味付けとして使用している。苦難を経験し、不幸に苦しむ現実にイヴァンがどう対処するかを見、人生における苦しみを神と悪魔の関係で理解しようとする様子は、まるでヨブ記的である。物語で起こることは誰かの罪なのか、誰かへの罰なのか、もしくは答えとなる福音なのか。宗教や人種が物語に内包されると正しい答えを求めてしまいがちだが、この物語では数々の事象がアップルケーキのように層になって我々に問いただしてくる。「とはいえ、まずは隣の人を信じられる人でいたいですよね?」と。

『アダムズ・アップル』

監督:アナス・トマス・イェンセン
出演:マッツ・ミケルセン、ウルリッヒ・トムセン、パプリカ・スティーン
2019年10月19日より、新宿シネマカリテにて公開後、全国順次公開
© 2005 M&M Adams Apples ApS.

『アダムズ・アップル』公式サイト

Text:Hisamoto Chikaraishi

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