2019.10.10
最終更新日:2024.03.07

10月11日公開! 自伝本に綴られた“嘘”と“真実”を巡る家族の物語『真実』

最近笑ってないかも、泣いてないなというおじさんのために、週末公開の心動かす注目映画を紹介するコラム『40歳男子はコレ観とけ!』。今回は、フランスの国民的女優が発表した自伝本をきっかけに、家族の間に漂う嘘と真実が露わになっていくヒューマンドラマをピックアップ!

10月11日公開! 自伝本に綴られた“嘘の画像_1

虚構で装飾された自伝本が照らし出す 隠された家族の真実と心の奥の奥

世界中にその名を知られる、国民的大女優ファビエンヌが、自伝本『真実』を出版した。海外で脚本家として活躍している娘のリュミールとテレビ俳優として人気の娘婿、そのふたりの娘シャルロット、ファビエンヌの現在のパートナーと元夫、彼女の公私にわたるすべてを把握する長年の秘書──ファビエンヌを取り巻く家族が、出版祝いを口実に集まるが、全員の気がかりはただ一つ。「いったい彼女は何を綴ったのか?」。そしてこの自伝に綴られた“嘘”と、綴られなかった“真実”が、次第に母と娘の間に隠された、愛憎うず巻く心の影を露わにしていく。

10月11日公開! 自伝本に綴られた“嘘の画像_2
ファビエンヌにとって家族は、劇中に出てくる壊れかけのトイ・シアターのように、自分を引き立てる劇場なのかもしれない。刷り上がったばかりの母の自伝を一晩で読み終えたリュミールは「この本のどこに真実があるのよ」と怒り半分に問いかけ、ファビエンヌは悪びれもせず「事実なんて退屈だわ」と独りよがりの虚構を肯定する。これを契機に、彼女たちの、そして家族の真実と事実を掘り起こす日々が始まる。すべての事象は時間の堆積であり、皆に平等に流れる時間の中で、感情だけが思い出として残る。リュミールは、自伝に登場しない、すでにこの世を去った愛すべきサラおばさんを懐かしみ、悼む。ファビエンヌもまた、親友でライバルだったサラの影を意識し続けていることを心に留めたまま口をつぐむのだった。心を許せる仲でありながら、分かり合えない他人である家族とは不思議なものである。歳を重ねた母娘のアンビバレントな思いは、本編を通して終始静かな緊張感をはらんでいる。
10月11日公開! 自伝本に綴られた“嘘の画像_3
新作映画の撮影に臨む母と、ひょんなことからパリに滞在している間、彼女の付き人を務めることになった娘のなにげないやりとりは、抜け落ちた時間と思い出を埋め合わせする機会となる。ときに、母の女優としての矜持とワガママが邪魔して素直になれないが、家族の間に横たわる固く透明な壁が次第に溶かされていくのがわかる。そして、そんな2人を見守るパリに同行してくれた心優しい夫と娘、料理好きな母の現在のパートナー、それに自由気ままに暮らす呑気な元夫と職人気質の秘書。広い意味での家族を優しく再定義してくれる様子は心地いい。次第に母娘は、言葉では表現できない絆に再び気づき歩み寄るのだが…。魅力的な役を演じるという女優としての生き方にすべてを注ぐファビエンヌと、そんな母を昔から見続け物語を紡ぐ脚本家の道を進んだリュミール。最後に一つの答えが掘り起こされる。真実はみんなが信じたい表面的な客観であり、事実はその人だけが受け止め認めた主観、であること。最後の最後、母娘の真実と事実は明らかにされるのか──結末は観るものによって自由に形を変えるだろう。 こちらもチェック!→ベネチア映画祭で『真実』上映。是枝監督のタキシードはアルマーニ!

『真実』

監督:是枝裕和 
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホーク、リュディヴィーヌ・サニエ
2019年10月11日TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開
©2019 3B-分福-MI MOVIES-FRANCE 3 CINEMA photo L. Champoussin ©3B-分福-Mi Movies-FR3

『真実』公式サイト

Text:Hisamoto Chikaraishi

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