まさに「火の呼吸」と呼ぶべきか――燃え立つ炎を自在に操るのは、岐阜県羽島市在住の刀鍛冶・淺野太郎さん。松炭を焚き、鉄を槌でたたく。その姿は『鬼滅の刃』作中に登場する刀鍛冶のキャラクター、鋼鐵塚蛍を彷彿とさせる。刀匠の視点から、作品の魅力を語ってもらった。
「鬼に襲われても刀を研ぎ続ける鋼鐵塚さんの姿は、究極的には理想」
淺野太郎(刀鍛冶)
想像以上に刀鍛冶のことがしっかりと描かれていますよね。例えば、刀鍛冶の鋼鐵塚さんが刀への愛着とプライドが強いがゆえに、「刀は絶対に折るなよ」という話をするところがあります。一方で、刀鍛冶の里に行ったときに、鋼鐵塚さんの師匠が「折れるようななまくらをつくるほうが悪い」と言う場面があって、あれはすごく的を射ているなと思いました。
刀というのは、一つの物差しなんです。使う人であれば、刀が曲がったり、折れたりした場合は自分の腕が悪いと考えることで行いを正し、もっと強くなろうとする。同じように刀をつくる側であれば、折れる刀をつくるほうが絶対に悪いと思うことでもっといい刀を、もっと強度のある折れない刀をつくろうと努力する。その両方があることで、剣士も、刀鍛冶もともに成長していけるのです。
これは僕が刀鍛冶の大先輩から教えられたことなんですけど、刀をつくるときは一心に天下泰平を願ってつくれと。刀は非常に繊細なものなので、つくる側の心が乱れているとそれが刀にも表れます。だから、雑念を入れずに集中することが大事なんです。鋼鐵塚さんは鬼に片目をつぶされてもまったく動じることなく、超人的な集中力を発揮して刀を研ぎ続けますよね。あの姿は究極的には理想の状態なのかもしれませんが、僕だったら間違いなくひるみますね(笑)。
TARO ASANO
1976年生まれ。二十五代藤原兼房刀匠のもとで修業し2004年に独立。現在は岐阜県羽島市に鍛錬場を構える。刀づくりにかかわるワークショップを開いたり、海外で日本刀鍛錬の公開パフォーマンスを行ったり、伝統技術への関心を広げる活動を精力的に行っている。「鬼滅の刃」に関するおすすめ記事はコレ!
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Photo:Aya Suematsu Guenier
Text:Masayuki Sawada
©吾峠呼世晴/集英社
Text:Masayuki Sawada
©吾峠呼世晴/集英社