2021.06.04
最終更新日:2024.03.07

【インタビュー】L.A.に移住したNulbarichのJQさんが、間近でBLMをみて感じたこと

ブラック・ミュージックの要素を取り入れながらも、日本人の琴線にも触れる流麗なメロディで多くのリスナーを魅了している、Nulbarich。2019年にさいたまスーパーアリーナでの単独公演を大成功におさめた後に、中心人物であるJQはLAを生活拠点に変更。予期せぬ「事態」に遭遇しながらも、そこでの生活の中で生まれたグルーヴをアルバム『NEW GRAVITY』に閉じ込めた。

【インタビュー】L.A.に移住したNulの画像_1

━━JQさんは、現在生活の拠点をL.A.に移されたそうですね。どういうきっかけで?


楽曲の発表がストリーミングが主体となったことで、どこで暮らしていても聴いてもらうことができるようになった。同時に、これからはグローバルな視野で活動するために、言葉やカルチャーの壁を超えた作品を発表するためにも、海外で暮らすこともアリなのかなって考えるようになったんです。


━━なぜ、L.A.を選んだのですか?


自分が影響を受けた音楽がアメリカのものが多かった。そのなかでもL.A.は、アメリカの中でも距離的に日本からそんなに離れていないし、またここ数年はエンターテインメントの中心地になっていて、さまざまなクリエイターが暮らしている。自分の感性に新しいものをインプットするには相応しい場所だと思いました。



【インタビュー】L.A.に移住したNulの画像_2
━━実際暮らし始めてみていかがでした?

2020年から暮らし始めてすぐにロックダウンという感じでしたね(苦笑)。でも、新しいことがドーンと目の前に来るのではなく、まずは朝向こうのニュース番組を観て目覚めて、少しずつ外出してレストランで食事ができるようになったりと、徐々に向こうの生活やコミュニティに馴染むようになれたのは、よかったのかなって思います。


━━これまでのL.A.での生活で一番刺激的だったことは?


「ブラック・ライヴズ・マター(BLM)」は大きな衝撃でしたね。一時期は、家のそばでデモが起こり警察が制圧するために発砲する音を聞いたり、ショップで強奪事件が発生する様子などを体験して、アメリカの独立戦争時代から未だに消えない歴史(人種間)の「歪み」があることを知ったというか。日本で過ごしているとどこか他人事で捉えていた出来事に対して、その根底にあるものを肌で感じることができました。と同時に、その日々のもがきや苦しみをブラック・ミュージックとして表現しているにもかかわらず、僕らはただ「かっこいい」とだけしか捉えていなかったんだなって。複雑な気持ちになりましたね。



【インタビュー】L.A.に移住したNulの画像_3
━━すると音楽に対する向き合い方にも変化はあったのではないでしょうか?

今までは届く人に楽しんでいただける音楽を作ればいいという気持ちが強かった。でも、向こうで暮らし始めたことによって、意味のある音楽を熟慮して届けたいと思うようになりました。だから、今回のアルバム『NEW GRAVITY』は歌とメロディにフォーカスした作品になったと思います。


━━確かに、今回の作品はこれまで通りの洗練されたグルーヴ感を保ちながらも、ヴォーカルが目立つ内容になっていますね。


思ったことを伝えるようになりました。向こうでは、自分の意見をしっかり持っていないと「空っぽ」な人と判断されてしまう所がある。だから漠然と「いい」と言うのではなく、どの部分に共感を抱いたのかなど、しっかり相手に伝えなくてはいけないんです。それは、向こうは毎日のように生活のルール(条例)が変わって、昨日まで問題なかったことが、突然ダメになってしまうことがあったり、明日何が起こってもわからない状況だから、その瞬間の思いを感情豊かに表現している。だから僕も、今起こったことを素直に表現したいと思ったんです。



【インタビュー】L.A.に移住したNulの画像_4
━━現在は、ライヴも自由におこなえない状況。そのなかで、どうやってリスナーに音楽を届けたいと思っていますか?

できないことをできないと騒いでいるだけでは何も生まれないと思います、もちろん、以前のようにたくさんのお客さんに囲まれてパフォーマンスをすることが何よりなのですが、それができなくてもコミュニケートできる手段を考えなくてはと思っています。ただ、話は逸れるんですけど、この間コンビニで不意に手渡しでお釣りを渡されたんですね。その時に感じた温もりに倒れそうになったくらい、心が動いたと言うか。改めて人と触れることの大切さを実感したんです。きっとライヴに関しても、改めて触れた瞬間今まで当たり前と思っていたことに対しての感動や興奮を噛み締められるような気がする。そして音楽の良さがさらに広まっていくためのいい機会になるのかなって。今はそうポジティブに考えるようにしていますね。


『NEW GRAVITY』 ビクターエンタテインメント (2021)

先行配信トラックである「TOKYO」など、東京とL.A.との生活の中で生まれたリズムを流麗に表現したディスク1と、Mummy-D (RHYMESTER)、Vaundyなど気鋭ミュージシャンとコラボして制作した楽曲を収録したディスク2からなる全19曲のボリューム盤。ヴィヴィッドな赤が印象的なジャケット同様、彼の音楽に対する真摯な思いが鮮やかに響く仕上がりになっている。


Nulbarich

シンガー・ソングライターのJQが (Vo.) トータルプロデュースするバンド。「Null(何もない)」「けど(but)」 「Rich(満たされている)」がバンド名となっている。2016年に発表した1stアルバムが大きな話題を呼び、今や国内のみならずアジア地域などでも人気を博す。21年6月13日には1年半ぶりとなる有観客ライヴ『Nulbarich ONE MAN LIVE – IN THE NEW GRAVITY -』を東京ガーデンシアターにて開催予定。

Photos:Teppei Hoshida
Interview & Text:Takahisa Matsunaga

RECOMMENDED