異文化カップルがたくさんのトラブルを乗り越えて幸せになれるのか!? 実話を元にしたラブストーリーを紹介します。
実話を元にした甘酸っぱいラブストーリー
「付き合ってまだ数ヶ月だし、プレッシャーをかけたくない。でも、自分でもびっくりなんだけど、あなたに夢中みたいなの」ーーエミリー
ーー今回の作品は『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』(2017年)です。
ジェーン・スー(以下、スー):この連載で取材した『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』(2018年)のボー・バーナム監督が俳優として出演してたね!
高橋芳朗(以下、高橋):ね! ボー・バーナムは実質本人役、しかも結構重要な役どころだったからなんか得した気分だった(笑)。では、まずはあらすじを簡単に。「パキスタン出身のアメリカ人コメディアン、クメイル(クメイル・ナンジアニ)は、シカゴのコメディクラブで出会った大学院生エミリー(ゾーイ・カザン)と付き合っていた。そんなある日、クメイルが同郷の花嫁しか認めない厳格な母親に言われるまま見合いをしていたことがエミリーにバレてふたりは別れることに。ところが数日後、エミリーが原因不明の病で昏睡状態に陥ってしまう。クメイルは病院に急行するも、エミリーの両親から受け入れてもらえない。果たしてエミリーは目覚めることができるのか? そして、ふたりの未来はどうなる?」というお話。
スー:導入のテンポ感含め、あんまりラブコメラブコメはしていないよね。
高橋:クメイルとエミリーのふたりが親密になっていく過程をモンタージュで見せていくシーンは完全にラブコメマナーだったけどね。この映画は実話ベースで、オスカーでは脚本賞にノミネートされていたりして結構評価が高いんだよ。ちなみにその脚本は実際のクメイルとエミリーが共同で書いてるんだって。
「パキスタンでは“お見合い結婚”が結婚だ。いとこは白人と結婚して勘当されたんだ。伝統と戦う気持ちがわかるか?」ーークメイル
スー:お見合い相手の女性たちもアメリカで育ってるわけで、普段は民族衣装を着ていないだろうし。にもかかわらず、自分たちの文化のなかで生きようと思ったら、ああやって定期的にパキスタン系独身男性が住む家を回らなきゃいけない。そこの気持ちは全く描かれていないよね。
高橋:映画として「パキスタン移民の理解しがたい慣習」みたいな見え方になっちゃっているところはあるかもな。実際、自分はそっち方向に引っ張られてしまったわけで。
スー:クメイルとエミリーの恋愛に文句はひとつもないんだけどね。ロマンチック・ラブ・イデオロギーに対して懐疑的になるチャンスがたくさんあったのに、そこは掘り下げてない。お見合いという慣習で幸せになる人たちもいるわけだから。たまたま、あのふたりは合わなかっただけで。
高橋:クメイルの両親もお兄さん夫婦もお見合い結婚でうまくいってるんだもんね。うーん、そのあたりが丁寧に描けていないことが後半からエンディングにかけてのキレの悪さにつながっているのかも。少なくともクメイルと彼のお母さんのあいだには最後にもう一歩突っ込んだコミュニケーションがあってもよかったんじゃないかな。
スー:そうだよね。でも、ラストのエミリーとクメイルのやりとりのシーンは記憶に残るね! 何度も言うけど、クメイルとエミリーのラブストーリーとしては最高なのよ。
高橋:そこは念押ししておきたいところだよね。エンドのクレジットにも、とある仕掛けが施されているので最後の最後まで見逃さないように!
『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』
監督:マイケル・ショウォルター
出演:クメイル・ナンジアニ、ゾーイ・カザン、ホリー・ハンター、ボー・バーナム
公開:2018年2月23日(日本)
製作:アメリカ
Photos:AFLO
ジェーン・スー
東京生まれ東京育ちの日本人。コラムニスト・ラジオパーソナリティ。近著に『これでもいいのだ』(中央公論新社)『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日新聞出版)。TBSラジオ『生活は踊る』(月~金 11時~13時)オンエア中。
高橋芳朗
東京都港区出身。音楽ジャーナリスト、ラジオパーソナリティ、選曲家。「ジェーン・スー 生活は踊る」の選曲・音楽コラム担当。マイケル・ジャクソンから星野源まで数々のライナーノーツを手掛ける。近著に「生活が踊る歌」(駒草出版)。