メグ・ライアンとトム・ハンクス主演の大ヒット作『めぐり逢えたら』。26年前のオーソドックスなラブコメを二人はどう見るのか…。
運命がテーマのスタンダードラブコメ
——1993年公開、ラブコメの名作と言われる『めぐり逢えたら』です。久しぶりにご覧になられていかがでしたか?
高橋芳朗(以下、高橋):いまだに根強い人気があるサウンドトラックの内容は割と覚えていたんだけど、肝心の物語に関しては完全に忘れていてびっくりした(苦笑)。ノーラ・エフロンが携わったメグ・ライアンのラブコメ三部作、あの『恋人たちの予感』(1989年)と『ユー・ガット・メール』(1998年)をつなぐ重要作だというのに!
ジェーン・スー(以下、スー):「公開から26年」という月日の重みを感じたな。私も観た記憶はあるのに、ほとんど内容を覚えていなくて…新鮮な気持ちで観られました。ははは。調べてみたら、これって全世界の興行収入2.2億ドルのメガヒット作品なのよね。いまのラブコメ映画と比べると、ストレートにロマンティックなもの、理由なんかないのが運命、ってタイプのラブロマンスがすんなり受け入れられた時代だったんだろうなとしみじみ思ったわ。
高橋:うん。現在の進化を遂げたラブコメ映画に比べるとシンプルすぎるきらいがあるんだけど、なにも考えずにロマンスに浸れる機能性は当時の基準からすると結構高かったのかもしれないね。物語の舞台になっているのが一年でいちばん人肌恋しい期間、ホリデーシーズンからバレンタインデーにかけてというのもあると思うけど。では、まずは簡単にあらすじを。「シアトルに住む建築家のサム(トム・ハンクス)は最愛の妻を癌で亡くしたばかり。いつまでも寂しそうな父を案じた8歳の息子ジョナ(ロス・マリンジャー)は、ラジオ番組のお悩み相談に電話をして『寂しそうなパパに新しい奥さんを見つけたい』と切々と訴える。その放送を聴いて心を動かされたのが、ボルチモアの新聞記者アニー(メグ・ライアン)。彼女は婚約者がいるにも関わらずトム宛てにラブレターを送ると、ジョナはアニーこそがサムの運命の相手であると直感。なんとかふたりを引き合わせようと画策するのだが…」というお話。
心動かされるラストシーン
——でも、やっぱりラストシーンでキュンとしてしまいました(笑)。
高橋:うん、なんだかんだラストシーンにはぐっときてしまった(笑)。繰り返しになるけど、やっぱりインスタントにうっとりできる機能性は高いんだよ。それにしても我ながらチョロすぎるな…ちょっと小っ恥ずかしくなってきたよ。
スー:わはは(笑)。確かに、最後の10分でたたみかけてくるところはあるね。
高橋:実はサムとアニーのロマンスよりもジョナの健気さに心動かされたんじゃないかって気もしてるんだけどね。でもまあ、なんといってもハートマークで飾られたバレンタインデーのエンパイアステートビルがクライマックスの舞台だからさ。あの破壊力はそれなりにあると思うよ。
スー:序盤から中盤までは特にのんびりペースで、今のラブコメ作品とは大違い。当時は、ゆっくり進むものを楽しめる余裕があったんでしょう。
——お二人が提唱しているラブコメの4要素はちゃんと入っていますでしょうか?
スー:そこはちょっと微妙で…。
高橋:そうだね。ジョナがアニーの手紙に運命を見出す経緯はご都合主義として受け入れるにしてもちょっと力技すぎる。アニーがサムに惹かれていく過程にしても同様で、運命として押し切るにはちょっと無理があるよね。単なる彼女のマリッジブルーにしか見えないという。
スー:アニーのありがちなマリッジブルーと、幼い息子の辻褄の合わない欲望。それに振り回されるサム、という感じ。伏線の回収がちょっと物足りないというか、カタルシスに乏しいとは個人的に思いました。
高橋:ケーリー・グラントとデボラ・カー主演の映画『めぐり逢い』(1957年)が伏線として要所要所で登場するんだけど、どうもストーリーに対してフックのかかりが浅いというかね。
スー:邦題を付けた人は天才だと思ったわ。劇中でフックになっている映画『めぐり逢い』がベースにあってこその『めぐり逢えたら』だからね。「めぐり逢えるか否か」がテーマの映画だし。アニーが『めぐり逢い』を観ながら、「この時代はロマンティックだったのね」って言っていたけど、2019年から見ると1993年も充分ロマンティックよね。
『めぐり逢えたら』
監督:ノーラ・エフロン
出演:トム・ハンクス、メグ・ライアン、ビル・プルマン、ロス・マリンガー
初公開:1993年12月11日
製作:アメリカ
Photos:AFLO
ジェーン・スー
東京生まれ東京育ちの日本人。作詞家、ラジオパーソナリティ、コラムニスト。現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」(月曜~金曜 11:00~13:00)でパーソナリティーを務める。近著に「女に生まれてモヤってる!」(小学館)。
高橋芳朗
東京都港区出身。音楽ジャーナリスト、ラジオパーソナリティ、選曲家。「ジェーン・スー 生活は踊る」の選曲・音楽コラム担当。マイケル・ジャクソンから星野源まで数々のライナーノーツを手掛ける。近著に「生活が踊る歌」(駒草出版)。