リアルなアラサー男女の心情を描く…。大人になりきれない大人たちの友情に胸をアツくさせる作品を紹介します。
女子の“アツい”友情物語
——前回に続き、ネットフリックスのオリジナル映画『サムワン・グレート〜輝く人に〜』です。今回も4月に配信されたばかりのホットな作品ですが、いかがでしたか?
高橋芳朗(以下、高橋):めちゃくちゃ良かったよー(泣)。まちがいなく、これまでこの連載で取り上げてきたなかにはなかったタイプの作品。ストレートなラブコメというよりは女子の友情物語的な色合いが濃くて、そういった意味では『ワタシが私を見つけるまで』に通じるところはあるかもしれないけどね。では、さっそくあらすじから。「ローリングストーン誌に就職が決まった音楽ジャーナリストのジェニー(ジーナ・ロドリゲス)は、ニューヨークを離れてサンフランシスコへ移住することになったため9年間付き合った恋人のネイト(キース・スタンフィールド)と別れることに。大失恋したジェニーはひどく落ち込むが、憂さ晴らしも兼ねて親友のエリン(デワンダ・ワイズ)とブレア(ブリタニー・スノウ)を誘って音楽フェスに潜り込もうと画策。なんとかネイトへの思いを振り切ろうとするが…」というお話。この映画って舞台はマンハッタンなんだけど、いわゆるラブコメ的なマンハッタンの描き方ではないんだよね。もっと生活感のあるマンハッタン描写。
ジェーン・スー(以下、スー):私はパッと見ではマンハッタンとわからなかったな。クールには描かれているけど、ロマンチックな演出に街の様子を使ってないからかも。そもそもロマンチックというより、恋愛は二の次な女子の成長譚だったね! メインの3人の女の子たちもそれぞれ個性的で素敵だった。
高橋:映画が始まったと同時にいきなりUGKの「Int’l Players Anthem」が流れてきてびっくりしたんだけど、主人公のジェニーが音楽ジャーナリストということもあってすごく音楽が充実してる。インディーシーンを中心に現行ポップミュージックをジャンル関係なくチェックしてる人だったらかなり楽しめるんじゃないかな。Spotifyには映画オフィシャルのプレイリストもあるぐらいだし、製作者側としても選曲に関して少なからず自負があるんだと思うよ。実際、この映画からリゾの2017年リリースのシングル「Truth Hurts」がリバイバルヒットしているわけだしね。ほら、ジェニーのアパートにエリンがやってきた時シンガロングしてた曲。劇中で効果的に使われたこともあって、いま「Truth Hurts」は女性をエンパワメントする曲として評価されていたりする。
大人になりきれない29歳の本当の姿
——3人の女の子が人種も性格もバラバラで、リアリティのある描き方な印象を受けました。
スー:精神年齢の描き方が正直でしたね。主人公のジェニーは29歳で、エリンもブレアも大学からの友達だからほぼ同い年でしょ? 29歳って、フィクションではもっと大人っぽく描かれがち。だけど、現実はあんな感じなんだよね。彼氏と別れたものの未練たっぷり。憂さ晴らしに女友達とめかし込んで出掛けたり、飲み過ぎたり、「平気平気」と言いながら元カレの姿を見つけて追いかけてしまったり、何を見ても彼のことを思い出してしまったり…。失恋あるあるがテンコ盛り。男性陣も子どもっぽい。どっちもリアリティがあったな。
高橋:リアリティってところでは、ジェニーとネイトの交際スタートから別れまでをSNSのモンタージュで表現していたのは生々しくもスマートだった。しかし失恋にまつわる描写はどれも古傷がうずく勢いでリアルだったな(苦笑)。ジャズスタンダードに「Good Morning Heartache」っていう有名な傷心ソングがあるけど、失恋ってまさにそういうことだよね。完全に立ち直るまで、毎朝「おはよう」って言って付き合っていかなくちゃいけない。
スー:そう、亡霊のようにね…。「SNSと若者」と言えば異常な承認欲求とセットで語られがちだけど、そういうのは一切なかったね。そこもリアリティの強化につながっていると思いました。デフォルメし過ぎた現実みたいなものがないのよね。ジェニーの元彼、ネイトの情けなさ具合も適温。
高橋:ネイト役のキース・スタンフィールドはTVドラマ『アトランタ』でのすっとぼけた怪演ですっかり好きになっちゃった。今回もめんどくさそうなナイーブ男を完璧に演じきってたね。この映画、女子の成長譚であることはまちがいないんだけど、ネイトのジェニーに対する言動がすごくリアルなこともあって男でもきっと楽しめるはず。あのネイトの「俺の機嫌を察してくれ」的な振る舞い、思い当たる男性諸氏は結構多いんじゃないかな?
スー:あるある! あり過ぎるよ! 何もないのに腹たってきた(笑)。
Netflixオリジナル映画
『サムワン・グレート〜輝く人に〜』独占配信中
監督:ジェニファー・ケイティン・ロビンソン
出演:ジーナ・ロドリゲス、ブリタニー・スノウ、ディワンダ・ワイズ、キース・スタンフィールド
初公開:2019年4月19日(配信スタート)
製作:アメリカ
ジェーン・スー
東京生まれ東京育ちの日本人。作詞家、ラジオパーソナリティ、コラムニスト。現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」(月曜~金曜 11:00~13:00)でパーソナリティーを務める。近著に「女に生まれてモヤってる!」(小学館)。
高橋芳朗
東京都港区出身。音楽ジャーナリスト、ラジオパーソナリティ、選曲家。「ジェーン・スー 生活は踊る」の選曲・音楽コラム担当。マイケル・ジャクソンから星野源まで数々のライナーノーツを手掛ける。近著に「生活が踊る歌」(駒草出版)。