スー:全体的にはジャンル問わずだったけど、ヒップホップやR&Bが多かった印象があるな。やっぱり今のアメリカのポップチャートはブラックミュージックが席巻しているのだなと改めて思ったわ。
高橋:そうね。登場人物がみんなボーダレスに音楽を楽しんでいる感じもすごく今っぽいなって思った。あと、使われている音楽が基本的にジェニーの生活や記憶に紐づいたものだからすごく響くんだよね。特に印象深かったのは、ジェニーが大学のクリスマスパーティーで初めてネイトに会ったときに流れていたヴァンパイア・ウィークエンドの「Mansard Roof」、それからジェニーがネイトとのセックスを回想するシーンでかかるミツキの「Your Best American Girl」。特に「Your Best American Girl」は「私はあなたのベストアメリカンガールにはなれない。あなたしかいないのに、ずっとあなたを求め続けていたのに。きっと後悔すると思う」って歌詞がジェニーの心情とオーバーラップした見事な選曲だったな。それから、どうしても傷心から立ち直れないジェニーが夢の中でネイトと会話するシーンで流れるフランク・オーシャン版の「Moon River」も切なかった。「夢を見せてくれるのも、心を砕くのもあなた。あなたが行くところなら私はどこにでもついていく」って歌詞が悲しすぎてもう。
スー:ほんとほんと! 私はリル・キムの「The Jump Off」が懐かしく甘酸っぱかったわ。
高橋:3人の大学時代の思い出の曲として流れるんだよね。学生時代にどれだけはっちゃけていたかがよくわかる(笑)。楽しいシーンだったし、ちょっとうらやましくもあったな。
スー:ヨシくんから見て、この選曲はかなり“今”な感じ?
高橋:そうだね。さっきも同じようなこと言ったけど、ジャンルレス化しつつある今のシーンのおいしいところをうまくすくい上げた印象。スーパーオーガニズム「Everybody Wants to Be Famous」、ツイン・シャドウ「Saturydays」、ジ・エイセズ「Fake Nice」、ブラッド・オレンジ「Charcoal Baby」ーー映画の製作中にホットだった曲をプレイリストにさくさく入れていくような感覚でかけていく感じが気持ちいいね。そのフットワークの軽さが映画自体のノリの良さにもつながってるような気もするな。ネットフリックスのカジュアルさともめちゃくちゃ相性がいい。
スー:それにしても、青春映画とも言えるくらいさわやかなガールズストーリーなのに、マリファナがあまりに頻繁に出てくるのには驚いた。「昼間っから… !?」って、ためらう場面も一瞬あったけど、結局は公道で吸ったりもしてたしね。過去にも平然とマリファナを吸う場面がある映画は多々あったけど、ここまでカジュアルであっけらかんと、しかも何度も出てくるのは記憶にないな。失恋を癒すために飲む、吸う、騒ぐ。いやーびっくりした。
高橋:アメリカの青春映画には割とつきものだし、もうニューヨークも半ば解禁されてるに等しいところがあるのかもしれないけど、だとしても多かったよね。いまのアメリカの気分を反映しているということでは、ブレアのマグカップに「FEMINIST」って書いてあったり、エリンのベッドルームの壁に「Black Lives Matter」のポスターが貼ってあったり、ジェニーのTシャツに「Latina-AF」ってプリントされてたり。エスニシティやジェンダーに関する主張がそこかしこに打ち出されていたけど、そういうディテールのいちいちを見入ってしまったよ。こうしたメッセージや音楽の鮮度が高いうちにさくっと観ておきたい映画だね。
スー:わかる! Latina-AFの「AF」はAs F**kの略で、単なる強調語らしい。だから「めっちゃラティーナ(ラテン系の女性)」って感じかな。ラテン系であることを誇るTシャツ。こういうのいいよね。そうそう、同性愛もとても自然に描かれていたな。それゆえに抱える悩みについては描かれているけど、それであることにはいちいち説明がないというか。グッときた言葉で言えば、みんなが集まるリビングルームのソファの置いてある壁に貼られたネオンサインの”DO what you Love”だな。ことあるごとに映されていて、あれが作品の大きなメッセージだったと思います。