現在公開中の映画を読み解く連載「売れている映画は面白いのか?」。今回取り上げるのは、ロバート・ロドリゲス監督がベン・アフレックを主演に迎え、仮想と現実の皮膜の混乱を描く奇想天外かつ痛快なサスペンス『ドミノ』。
『ドミノ』
監督/ロバート・ロドリゲス
出演/ベン・アフレック、アリシー・ブラガ
10月27日より全国公開
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『マトリックス』+スティーブン・キング? 続編が観たくなる異才の新境地
『エル・マリアッチ』(1992年)でデビューして31年。クエンティン・タランティーノの盟友でタッグ作も数多くあるロバート・ロドリゲス。「映画秘宝」的な血みどろ描写と、過去の名作へのリスペクトで知られる監督です。近作はあまり観ていませんでしたが、この新作、結論から言えばかなり面白かった。シリーズ化への期待も高まります。
仮想と現実の皮膜で混乱が起きるミステリーは『マトリックス』(1999年)以降、愛好家がたくさんいるジャンルムービー。その一本でもある本作はロドリゲスがお得意のエロスやバイオレンスを極力抑え、ギリギリ家族でも楽しめるように仕上げた良作。他人に暗示をかけて思いどおりにコントロールしたい。どんな観客にもあるよこしまな欲望をうまく刺激しています。
超・催眠術を駆使した、一種の妖術合戦。このジャンルはお互いにひっくり返し続け、キリのない子どものけんかのようになってしまうところがありますが、これはエンターテインメント作劇として決定打の着地点も悪くない。
ベン・アフレック演じる主人公の物語がどこに向かうのかは観てのお楽しみですが、いずれもスティーブン・キング原作の『キャリー』(1976年)、『炎の少女チャーリー』(1984年)に通ずる“少女の覚醒”が根幹にあります。この世界観の導入で一気にジャンルが拡張し、ダイナミズムが変容していく。
仮想と現実の皮膜の混乱を真面目に描くクリストファー・ノーランのような監督もいますが、ロドリゲスは虚構世界をあえてチープなハリボテとして提示するなど、ギャグ寸前のアナログ感覚。これこそが彼の真骨頂で、終盤の展開ではB級映画も愛するオタク魂を見せつけている。
かつてはデイヴィッド・リンチ作品や『新世紀エヴァンゲリオン』のような訳のわからないエンディングも許されましたが、今やそんなことをやっても古くさいだけ。女性蔑視や残虐描写はもちろん御法度。そんな現代に、何をやればいいのか。ロドリゲスも大人になったと言えるし、うまく次につなげたラストには、単純に続編を観たいと思わせる成果があります。
タランティーノは次回作で引退を発表していますが、ロドリゲスはまだまだこの調子で映画を撮り続けそうですね。(談)
菊地成孔
音楽家、文筆家、音楽講師。最新情報は「ビュロー菊地チャンネル」にて。
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