約20年前に公開された作品『愛しのローズマリー』をジェーン・スーと高橋芳朗はどう読み解くのか?
約20年前のラブコメヒット作
——今回紹介する作品は2001年公開の『愛しのローズマリー』です。前回紹介した作品の流れで、この作品を選ばれたとのことですが…。
高橋芳朗(以下、高橋):前回の『アイ・フィール・プリティ 人生最高のハプニング』(2018年)は容姿にまつわるコンプレックスを題材にした物語だったわけだけど、この映画を観て『愛しのローズマリー』を連想した人は結構多いだろうと思って。設定からして似ているところがあるし、『アイ・フィール・プリティ』をさらに掘り下げていく意味でもこの機会に取り上げてみるのは有意義なんじゃないかなと。この20年でラブコメ映画を取り巻く状況がどのように変化してきたのか、考えるうえで良い比較対象になると思うしね。
ジェーン・スー(以下、スー):アメリカでも比較して語られたらしいね。監督は曰くつきと言われがちなファレリー兄弟。代表作には『メリーに首ったけ』(1998年)や『ふたりにクギづけ』(2003年)があって、バカバカしい、過激、タブーに切り込んでいく監督と捉えられていたんだけど…いま観るとそうも言っていられない。私も公開当時に『メリーに首ったけ』を観て笑って、でも嫌な気分がうっすら残ったんだよね。いまならその理由がわかる。女性だけでなく男性のことも馬鹿にし過ぎているし、ご都合主義の後味が悪い。いかにこの20年間で社会の意識が変わったか、自分の意識が変わったかがわかる作品と言えるかも。
高橋:まずは『愛しのローズマリー』のあらすじを簡単に。「父親の遺言を守って外見の美しい女性だけを追い続けてきたハル(ジャック・ブラック)は、ある日エレベーターに乗り合わせた自己啓発セミナーの講師から内面の美しい女性が美人に見えるようになる催眠術をかけられる。その直後、彼は街で見かけた太った女性ローズマリー(グウィネス・パルトロウ)に一目惚れ。本当の彼女の姿を知らないまま猛烈なアタックを開始したハルだったが…」というお話。
スー:『アイ・フィール・プリティ』は、容姿に自信がない女性主人公が事故のせいで自分がイイ女に見えるようになった話。『愛しのローズマリー』は、容姿でしか女の人を好きになれない男ハルが主人公で、心の綺麗な女性が絶世の美女に見えるようになった話。役割が逆になっているようで、そうでもないのがミソ。
高橋:似たようなセリフが飛び出したりもするんだけど、観る側の受け取り方はぜんぜん違ってくると思う。『アイ・フィール・プリティ』のレネー(エイミー・シューマー)は自尊感情が低い女の子だったでしょ。でも、ローズマリーは「私は自分がどういう人間か知っている」と言っているように自分自身をちゃんと受け入れてるんだよね。
ハルの心の変化
高橋:ハルはローズマリーと出会う前、同じアパートに住んでるジル(スーザン・ウォード)を熱心に口説いていたんだけど、その言い草が「今度会社のパーティに連れて行きたいから5日間だけ付き合ってくれよ」とかそんな感じなんだよね。もう完全に女性をモノとしてしか見ていない。でもローズマリーに対しては最初こそ見た目で接近していくんだけど、次第に彼女の人間性に惹かれ出していくのがよくわかる。
スー:それまではひどかったもんね。女の人を戦利品のようにしか見てなかった。ローズマリーとコミュニケーションを取るようになってからは、一緒にいて楽しいというかけがえのない喜びをハルは知ったんだよ。それは『アイ・フィール・プリティ』でも言えること。レネーの彼は、レネーのことを「こんなにポジティブで面白い人は見たことはない!」って好きになったわけで。レネーは自分を絶世の美女だからモテていると思っていたけど、実はそうじゃない。「やっぱり見た目が一番大事でしょ!」っていうトロフィーワイフっぽい強迫観念から逃れられない男の人に伝わるといいなぁ。
ジェーン・スー
東京生まれ東京育ちの日本人。作詞家、ラジオパーソナリティ、コラムニスト。現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」(月曜~金曜 11:00~13:00)でパーソナリティーを務める。
高橋芳朗
東京都港区出身。音楽ジャーナリスト、ラジオパーソナリティ、選曲家。「ジェーン・スー 生活は踊る」の選曲・音楽コラム担当。マイケル・ジャクソンから星野源まで数々のライナーノーツを手掛ける。