ジェーン・スーと高橋芳朗がラブコメ映画について熱く語る連載の第2弾! 女の子応援映画の中に男性が観るべき真髄、教えます。
これぞ新しい時代の王道ラブコメ映画
――今回紹介する作品は現在公開中の『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』です。
高橋芳朗(以下、高橋):こういう王道感あふれるラブコメ映画が劇場でかかるというだけでうれしくなっちゃうよね。では、さっそくあらすじから。「容姿にコンプレックスがあることからなかなか自分に自信をもてないでいる化粧品会社勤務のレネー(エイミー・シューマー)。彼女は自分を変えようとジムに通い始めるが、エクササイズ中に頭を打って気を失ってしまう。目が覚めたレネーはなぜか自分が絶世の美女になったと思い込み、それに伴って性格も超ポジティブに大変身。一転して自信に満ち溢れた彼女は仕事も恋も絶好調になるが…」というお話。
ジェーン・スー(以下、スー):新しいラブコメ映画の誕生に私も感激しちゃった。というのも、旧来型のラブコメ映画には「大好きな男の子と結ばれるのが女の子の一番の幸せ」ってメッセージが多少なりともありました。だけど、ここ十年で女性の地位向上やダイバーシティ、ジェンダーロールを固定しない生き方のイシューが俎上に上がるようになって、「誰かに選ばれることだけが女の幸せではない」って女の人たちが気付いちゃったんだよね。恋愛至上主義のラブコメ映画がヒットしづらくなったのもそれが理由のひとつなんじゃないかな。でも、最近また流れが変わってきたように感じます。前回紹介した『おとなの恋は、まわり道』も今回の作品も、どちらも“ラブ”と“コメディ”の要素を持ちながら、メッセージを変えてきてる。「自分を信じられなきゃ、誰かに選ばれても幸せにはなれない」って。
高橋:ラブコメ映画の様式をきっちり踏まえつつ、ちゃんとそのへんがアップデートされているからね。これはなかなか感動的な体験だったな。映画の序盤のレネーの悲痛な叫び、「美しい容姿だったらもっと多くの可能性が開けたのに!」というセリフが飛び出したあたりから心を揺さぶられっぱなしだったよ。
スー:私は開始5分で泣きそうになったわ。あのジムのシーン! きれいな人ばかりで居場所がないとか、人より靴のサイズが大きいから恥ずかしいとか、痛いほどよくわかる。ヒロインのレネーと同じように、容姿コンプレックスがあって、そのせいで人生損をしているように感じてる女性は日本にも多いんじゃないかな。実際はどうか別にしても、キレイな子たちってものすごく得をしているように見えるしね。努力をすればレネーの現状も変わるんだろうけど、なかなかうまくいかない。そりゃそうよ、努力なんて「私はできる!」って自信がなきゃ続けられないもの。男性に例えるなら「俺にもっと学歴があったら」「もっと金持ちだったら」って気持ちと似てるんじゃないかな。富とか権力って、女性の場合は“美”とイコールにされることが多いから。自信がないと一歩前に踏み出せないのは、男も女も同じなのかも。
自尊心を持つことの大切さ
高橋:この映画、やはりというかなんというかファレリー兄弟監督の『愛しのローズマリー』(2001年)となにかと比較されてるみたいだね。あの映画は容姿の美しい女性ばかりを追いかけてる主人公ハル(ジャック・ブラック)が内面の美しい女性のみ美人に見える催眠術をかけれられて、その結果300ポンドある巨漢のローズマリー(グウィネス・パルトロウ)に一目惚れするというお話。共通点が多いのは確かなんだけどね。
スー:『愛しのローズマリー』は、いま観たらいろいろ問題のありそうな作品だよね。いつかここでも取り上げなきゃ。この2作品の違うところってさ、ヒロインは二人とも絶世の美女ではないんだけど、レネーのメンタリティはローズマリーじゃなくてハルなんだよ。つまり、「女はキレイな方がいい」ってモノサシで自分に低い評価を付けてる。罰を与えている側と受けている側が同一人物なんだから、そりゃレネーも混乱するわ。かたやローズマリーは世間が自分をどう見ているかは分かっているけど、自尊感情が低すぎないんだよ。自分には自分の良さがあるってことをちゃんとわかってる。
高橋:レネーの日本語吹き替えを務めてる渡辺直美さんが身をもってそれを証明してるよね。そのへんは劇中のビキニコンテストのシーンにも明快に描かれていたと思う。最初は嘲笑していた客をじわじわと味方につけていくさまが痛快だったな。
スー:ビキニコンテストの審査員がレネーの彼に言ったセリフ、地味だったけど感動したわー。
高橋:美しさに規準なんてない、そのままでいいんだってことなんだろうな。物語の進行と共に微妙にメイクや髪型を変えてヒロインの成長を外面の変化で表現するラブコメ映画はよくあるけど、この『アイ・フィール・プリティ』に関しては最初から最後までレネーの外見は基本的になにも変わっていないんだよね。
『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』
監督:マーク・シルヴァースタイン&アビー・コーン出演:エイミー・シューマー、ミシェル・ウィリアムズ
12月28日(金) 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
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『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』公式サイト