数ある漫画の中から実写にしてほしい作品を紹介する連載。第七回目に取り上げるのは、不倫、介護、LGBTなど、社会課題を盛り込みつつ、多様な生き方や新しい家族的つながりを描いた、疾走感あふれる50歳からの波瀾万丈&痛快人生ドラマ『ゆりあ先生の赤い糸』だ。
倒れた夫に男女の愛人と隠し子発覚!? 50歳女性の波瀾万丈人生スタート!
高齢化社会を反映し、『傘寿まり子』『メタモルフォーゼの縁側』『海が走るエンドロール』など、高齢女性が主人公のマンガが近年増えている。一方、アラサー女性の恋や仕事を描いた作品は数多い。しかし、その中間の40~50代女性が主役となることはあまりない。あったとしても「お母さん」を演じるのがほとんどだ。
その点、本作はお母さんでも美魔女でもない50歳の女性を主役に据え、性欲も含めた“生身の人間”として描いたところが画期的。しかも、平凡な人生が波瀾万丈に激変するのだ。
それだけでも大変なのに、ホテルに一緒にいた青年はなんと吾良の恋人だった。しかも「ボクのほうがゴロさんのことよくみられると思う」と介護参加宣言。そこに吾良をパパと呼ぶ女児二人が訪ねてくる。入院中の母親(つまり吾良の愛人とおぼしき女)に事情を聞けば、DV夫から逃げているという。やむなく子どもたちを退院まで預かることにしたら、その夫が模造刀を手に乗り込んできて…と怒濤の展開。
豪快な言動と繊細な乙女心が同居するゆりあはもちろん、憎み切れないろくでなしの吾良、自己愛の強いゲイ青年、かわいくもしたたかな二児の母、チャラそうに見えて誠実な便利屋青年らのキャラがいい。ジェンダー格差、LGBT、介護などの社会的課題を盛り込んで、多様な生き方、新しい家族的つながりを描いた本作は、男女を問わず必読だ。第27回手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞作として注目の今こそ実写化のチャンス。ディープな内容はテレビより映画向きかな。是枝裕和監督でぜひ。
『ゆりあ先生の赤い糸』
入江喜和 全11巻/講談社
平凡だったはずの女の人生が、ある日突然、激流にのまれる。不倫も介護もDVも年の差恋愛も全部まとめてゆりあ先生が面倒見るぜ! 疾走感あふれる50歳からの波瀾万丈&痛快人生ドラマ!
南 信長
マンガ解説者。朝日新聞ほか各雑誌で執筆。著作に『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。2015年より手塚治虫文化賞選考委員も務める。
Ⓒ入江喜和/講談社