世界でヒットしている曲を内容まで理解して聴いてみるのはどうだろう? 今回は、新作アルバムの全収録曲がビルボード・チャートのトップ100にランクインするという快挙を成し遂げた、アメリカのカントリーアーティスト モーガン・ウォレンの「ラスト・ナイト」を取り上げる。
その国ならではのヒット曲
今回はモーガン・ウォレンの「ラスト・ナイト」。この曲を含む36曲入りの2枚組ニューアルバムが3月にリリースされると同時に、なんとビルボード・チャートのトップ100に36曲すべてがランクインするという快挙を成し遂げた。
こう書き記すと一体どんな人なのかと身構えてしまうが、彼自身は非常にスタンダードなカントリーのアーティストで、「ラスト・ナイト」自体もアコースティックギターがメインの非常にシンプルなカントリー・ソングである。歌詞も「昨夜 俺たちは飲んで話した 何を言ったか全部は覚えてないけど 何でも話した “出会わなければ良かった”と君は言ったけど 俺は信じてた 終わりじゃないって なのにまさか最後の夜になるなんて」と、楽しく酒を飲んでいたのにひょんなことからけんかになって、終わってしまった男女の話が歌われる。内容も非常にシンプルで、わかりやすい物語が、わかりやすい描写で描かれているという印象だ。
私自身も初めはなぜこの曲がこんなにも人気なのだろうと思ったし、私の友人のミュージシャンたちも同様の感想を抱いていた。でも、気がつくと何気なくこの歌を口ずさんでいる自分もいた。シンプルゆえの口馴染みのよさがあるのは確かだ。
かのテイラー・スウィフトだってもともとはカントリー出身だったように、アメリカという国はカントリーの文化が根強い。それは日本で“Jポップ”という音楽が根強いのと同じで、その国でいくら新しいスタイルの音楽が流行しようとも、人々の心の奥に根づいた何かが、こうして古きよきスタイルのヒット曲を新たに生み出すのである。
仕事柄、人から「聴く音楽の幅を広げたいけどどうすればいいですか」といった質問をよく受ける。そんなとき私は「USAやUKのチャートだけでなく、例えばフランス、メキシコ、タイ、ブラジルみたいに普段なら聴かない国のヒットチャートを聴いてみると結構面白くて、新しい発見がありますよ」と答える。今はサブスクで簡単に他国のトップ100が知れて、すぐにそれを聴ける時代。これを機に皆さんも“その国ならではのヒット曲”に触れてみると、楽しいかもしれません。
いしわたり淳治
作詞家、音楽プロデューサー。1997年、バンド「スーパーカー」のギタリストとしてデビューし、すべてのギターと作詞を担当。現在までに700曲以上の楽曲を手がけている。