2023.08.04
最終更新日:2024.03.08

【建築がアツい、渋谷区公共トイレ・前編】文化系男子が訪れるべき「THE TOKYO TOILET」9選

多様性を受け入れる社会の実現を目的とした渋谷区と日本財団の虎の子事業、「THE TOKYO TOILET」を総まとめ。建築家やクリエイターら16人がデザインの力で手掛けた公共トイレのうち、前編では8人の「建築家」に絞って紹介する。

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【建築がアツい、渋谷区公共トイレ・前編】の画像_2
(左から)長谷部健・渋谷区長、笹川順平・日本財団常務理事 撮影:道中貴弘




もはやトイレは渋谷区の観光名所!


日本財団渋谷区(長谷部健・区長)は、ソーシャルイノベーションで社会課題の解決を図る先駆的な取り組みを支援するとともに、渋谷ならではの文化や芸術等の育成と世界への発信を行なう内容の包括連携協定を2017年10月に締結。一方で、個人のプロジェクトとして、2018年に柳井康治氏の発案により、渋谷区内の公共トイレをデザイン・クリエイティブの力で刷新する「THE TOKYO TOILET」が発足。企画から資金提供までを行なう柳井氏と日本財団のパートナーシップで、性別・年齢・障害を問わず誰もが快適に使用できる公共トイレが渋谷区内の17箇所にて整備された。


文化系男子ならば、渋谷界隈での買い物途中に目にしたことがあるかもしれない。



【建築がアツい、渋谷区公共トイレ・前編】の画像_3
この「THE TOKYO TOILET」に賛同した建築家やクリエイターら16人が手掛けた公共トイレは17箇所。すべての整備運用が整った2023年6月23日、日本財団から渋谷区への譲渡式が行なわれた。

そこで、非4K(臭くない、汚くない、暗くない、怖くない)を謳う「THE TOKYO TOILET」を総まとめ。前編では8人の建築家が手掛けた渋谷9箇所の「建築がアツい」トイレを、建築家の公式コメントと共に紹介する。






坂 茂 (建築家)

①代々木深町小公園トイレ

住所:渋谷区富ヶ谷1-54-1






②はるのおがわコミュニティパークトイレ

住所:渋谷区代々木5-68-1


ザ トウメイ トウキョウ トイレット



「公共のトイレ、特に公園にあるトイレは、入るとき2つの心配なことがあります。一つは中が綺麗(クリーン)かどうか、もうひとつは中に誰も隠れていないかどうか。新しい技術で作られた鍵を締めると不透明になるガラスで外壁を作ることで、トイレに入る前に中が綺麗かどうか、誰もいないか確認でき、その2つの心配をチェックすることができます。そして夜には、美しい行灯のように公園を照らします」(坂 茂/建築家)


※2022年12月14日より常時、不透明な状態として運用






槇文彦 (建築家)

③恵比寿東公園トイレ

住所:渋谷区恵比寿1-2-16


タコ公園のイカトイレ



「敷地の恵比寿東公園は、緑豊かな児童遊園として普段から近隣の人々に親しまれている公園です。私たちはこの施設を単なるパブリックトイレとしてだけでなく、休憩所を備えた公園内のパビリオンとして機能する公共空間としたいと考えました。子どもたちから通勤中の人々まで、多様な利用者に配慮し、施設ボリュームの分散配置によって視線を制御しながら、安全で快適な空間の創出を目指しました。ボリュームを統合する軽快な屋根は、通風を促し自然光を呼び込む形態とし、明るく清潔な環境と同時に、公園内の遊具のようなユニークな姿を生み出すことを意図しました。タコの遊具によって『タコ公園』と呼ばれる恵比寿東公園に、新しく生まれた『イカのトイレ』として親しまれることを望んでいます」(槇文彦/建築家)


構造デザイン協力:KAP






坂倉竹之助 (建築家)

④西原一丁目公園トイレ

住所:渋谷区西原1-29-1


ANDON TOILET



「従前の西原一丁目トイレは利用頻度が極めて少ない実態があり、近寄りがたい印象すらあります。一般的なトイレ整備の目標とされる便器数の充足、待ち時間解消といった “数”や“時間”という数値とはまた別の魅力を持たせることでみんなが「利用したいと思う」トイレを創出することが、この敷地では重要と考えます。限られた敷地に、従前よりも明るく開放的なトイレをもたらすことで、トイレ単体ではなく、この公園全体のイメージを改善することを目指します。“行燈”としてのトイレが公園を明るく照らし出すことで、誰もが気軽に訪れる公共空間として望ましい姿になることを願っています」(坂倉竹之助/建築家)






安藤忠雄 (建築家)

⑤神宮通公園トイレ

住所:渋谷区神宮前6-22-8


あまやどり



「小さな〝あずまや〟なりに、公共トイレという機能だけではない、都市施設としての意味、パブリックな価値を持つものでありたい。そのもっともシンプルかつ明快な回答として、円形平面の棟から、屋根庇が大きくせりだし縁側をつくる造形を考えました。安全で安心な空間とするため、外壁は風と光を通すたて格子とし、利用者が円形を描くその壁に沿ってグルリと通り抜けられるようになっています。『神宮通り公園』の木々の緑の中にひっそりと佇むこのトイレ、名付けて『あまやどり』です」(安藤忠雄/建築家)






隈研吾 (建築家)

⑥鍋島松濤公園トイレ

住所:渋谷区松濤2-10-7


森のコミチ



「緑豊かな松濤公園に、集落のような、トイレの村をデザインした。ランダムな角度の耳付きの杉板ルーバーに覆われた5つの小屋は『森のコミチ』で結ばれて、森の中に消えていく。多様なニーズ(子育て、身だしなみ配慮、車いす等)にあわせて、村を構成するひとつずつのトイレの、プラン、備品、内装も異なる。そのいろいろな個室を分棟とすることで、ポストコロナの時代にふさわしい、公園に開かれた風通しの良い、通り抜けのできる『公衆トイレの村』ができあがった。トイレにも多様性の時代、森の時代がやってきたのである」(隈研吾/建築家)






伊東豊雄 (建築家)

⑦代々木八幡公衆トイレ

住所:渋谷区代々木5-1-2


Three Mushrooms



「代々木八幡宮の森から生まれた3本のキノコのようなトイレです。山手通り沿いに建っていますが、参道にあたる階段の上り口にあるので背後の森と調和するようキノコを連想させる表現を採りました。個室型のトイレを3つに分散させることで回遊性を生み出し、行き止まりが無く視線が抜けることで防犯性を高めています。また、各個室の広さを豊かにとり、従来は多目的トイレに集約していた高齢者や子供連れのための機能も男女の個室へと分散することで、パブリックなトイレとして多様な利用者にとって利用しやすいつくりとしています」(伊東豊雄/建築家)






藤本壮介 (建築家)

⑧西参道公衆トイレ

住所:渋谷区代々木3-27-1


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器・泉(うつわ・いずみ)



「公衆トイレは都市の中の水場、街の泉であるといえるのではないでしょうか。トイレを利用する人だけではなく、さまざまな目的を持った多様な人々に開かれた、公共の水場としての手洗い空間を提案します。それはみんなのための、ひとつの器(うつわ)です。中央が大きく凹んだこの形は、様々な高さの手洗い場をひとつの形に内包したもので、子供からお年寄りまでが、 この器を囲んで手を洗い、水をくみ、会話をして、小さなコミュニティが生まれるきっかけとなるはずです。水を囲んで人々が集う場所として、新しい公共空間のあり方を提案したいと思います」(藤本壮介/建築家)






小林純子 (建築家)

⑨笹塚緑道公衆トイレ

住所:渋谷区笹塚1-29


まちあかりのトイレ



「高さの異なる円筒形のトイレに、黄色い楕円形の大庇を浮かし、外壁についた丸窓からはうさぎがのぞいています。敷地の特殊事情から軽量化が求められ、耐候性鋼板パネル構造にし、また、京王線高架下の閉鎖感をなくそうと大庇を浮かせて第2の空を造りました。耐候性鋼板パネルは、鉄板を一旦錆びさせているためいつまでも強度と風合いが保てます。まちの頑固おやじのように、存在感がありまちの人々を明るく見守ってくれると同時に、楽しさも感じるトイレにしたいと思いました。開口部は広くとり、重厚ながらオープンで、中は明るく清潔感あふれ、安全性も感じるトイレにしました」(小林純子/建築家)






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前編で紹介する「建築がアツい」渋谷区「THE TOKYO TOILET」は以上。続く後編では、8人の「クリエイター」が手掛けた8つの「THE TOKYO TOILET」をお届けする。乞うご期待。





撮影:永禮 賢 (Satoshi Nagare) / 提供:日本財団

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