数ある漫画の中から実写にしてほしい作品を紹介する連載。第六回目に取り上げるのは、凸凹ペアがカオスな事件を追うニュータイプの刑事ドラマ『下足痕踏んじゃいました』 だ。
武闘派女子&癒やし系男子の 凸凹ペアがカオスな事件を追う刑事コメディ!
古くは「太陽にほえろ!」から先頃シーズン21が終了した「相棒」シリーズまで、根強い人気を誇る刑事もの。ほかにも「あぶない刑事」「踊る大捜査線」「アンフェア」「MIU404」など枚挙にいとまがない。そんな刑事ドラマのラインナップにぜひ加えてほしいのが本作だ。
日々発生する事件に派手さはない。が、そのぶん、人間味にあふれる。すれ違いざまの暴行、事務所荒らし、ギャンブル好きの夫の失踪…。事件のスケールがどうであれ当事者には重大事だし、いずれも謎解き的要素とプチどんでん返しがある。中でも出色は、ヒモ同然の夫の捜索願を出しに来た看護師の妻の暴走ぶり。二転三転の展開と、身もフタもない結末に開いた口がふさがらない。ミステリーと呼ぶにはあまりにポンコツな事件だが、ハタ迷惑でも憎みきれないキャラクター造形と人間心理のひだに触れるストーリーテリングは手練れの技だ。
刑事ドラマの「あるある」を踏まえた演出があるかと思えば、鑑識課の捜査官が花のことを「工藤ちゃん」と呼ぶのにドラマ好きの宙が反応する場面(松田優作&成田三樹夫の「探偵物語」へのオマージュ)も。どうやら作者も相当のドラマ好きと見た。本人の頭の中ではすでに配役が決まっていそう。プロデューサーの皆さん、早くツバつけたほうがいいですよ!
『下足痕踏んじゃいました』
麻生みこと 1~2巻/白泉社
メロディ連載中
「下足痕(げそこん)」とは、現場に残された犯人などの足跡のこと。コメディタッチながらも捜査や人間心理の描写にはリアリティあり。ニュータイプの刑事ドラマに要注目!
南 信長
マンガ解説者。朝日新聞ほか各雑誌で執筆。著作に『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。2015年より手塚治虫文化賞選考委員も務める。
Ⓒ麻生みこと
花とゆめコミックススペシャル/白泉社