世界でヒットしている曲を内容まで理解して聴いてみるのはどうだろう? 今回は、テイラー・スウィフトの「アンチ・ヒーロー」を取り上げる。
有名税の増税が止まらない
今回はテイラー・スウィフトの「アンチ・ヒーロー」。日本語にすると、「一般的な英雄のように社会的に正しい倫理観をもたない人物だけれど見方によっては、ヒーローにも見える人物」という感じだろうか。近年流行りのダーク・ヒーロー物の映画の主人公がいわゆるそれだと思う。
歌詞は「年を重ねても賢くならないわ 鬱になると真夜中が私の午後になる 私から関係を断った人たちの亡霊が部屋に立ってる」と暗いトーンで始まり、「好き勝手になんか出来ない 悪いことが起きて最後は破滅するもの 叫びながら夢から覚める いつの日かあなたが去っていくのを見守るわ あなたは私の悪だくみに飽きてしまったから」と続き、サビは「私よ 私に問題があるの ティータイムで皆も納得してる 太陽は真っ直ぐに見られても鏡は見られない いつもアンチヒーローを応援するなんて 疲れるわよね」と終始自虐のような歌詞が続いていく。
世界的アーティストの彼女がこういった歌を歌うのはショックではあるけれど、ではアンチヒーローの目線に立ってほかに誰が歌えるかと言ったら、ちゃんと「ヒーロー」の立場になった経験がある人物でなければ説得力がないのだから、このテーマは彼女ならではのものすごく冷静かつ的確な選球眼で選ばれていることがわかるし、そのセンスはさすがのひと言に尽きる。
世界情勢が不安定になり日本も防衛費に充てるために増税をしなければならない、そんなニュースが飛び交う昨今。でも、ここ数年で最も急激に上がった税金は間違いなく“有名税”だと思う。知名度と引き換えに生じるさまざまな問題の代償は、十数年前とは比べものにならない。SNSの普及によって、たとえどんなにスターであっても神秘性よりもやたらと親近感が求められる時代。
でも個人的には、スターはいつまでも手の届かないスターのままでキラキラと輝き続けて、素敵な曲を作り続けてくれるほうがよっぽどいいと思うのだけれど、どうだろう。この先、有名税が下がる日は来るのだろうか。
いしわたり淳治
作詞家、音楽プロデューサー。1997年、バンド「スーパーカー」のギタリストとしてデビューし、すべてのギターと作詞を担当。現在までに700曲以上の楽曲を手がけている。