2022.12.28

佐久間宣行(テレビプロデューサー)×林士平(『少年ジャンプ+』編集者) 【仕事術からエンタメの未来まで】炎の20,000字対談!

『ゴッドタン』や『ウレロ☆シリーズ』、『あちこちオードリー』など人気バラエティ番組を多数手掛け、ニッポン放送『佐久間宣行のオールナイトニッポン0 』(ZERO)ではパーソナリティーを務めるなど、多彩な活躍を見せるテレビプロデューサー、佐久間宣行。かたや、『SPY×FAMILY』に『チェンソーマン』、『ダンダダン』など数々のヒットマンガ作品を担当する辣腕編集者である林士平。テレビバラエティとマンガ。ジャンルは異なれど、その最前線に身を置く彼らが、『チェンソーマン』から、現代のエンターテインメントまで、互いの仕事術や哲学を交えながら、初対談にして超・激語り! その模様をほぼノーカットでお届けする。

佐久間宣行(テレビプロデューサー)×林士の画像_1
佐久間宣行(テレビプロデューサー)×林士平(『少年ジャンプ+』編集者) 対談1
【左】佐久間宣行(テレビプロデューサー) × 【右】林士平(『少年ジャンプ+』編集者)

※マンガ原作を未読で、アニメ版のみ
視聴している方には、
キャラクターや
ストーリー上のネタバレを含みますので、
ご注意ください。

僕はすごい好きです(佐久間)

――マンガは第2部突入、テレビアニメも話題の『チェンソーマン』ですが、佐久間さんはどう楽しんでいますか?

『チェンソーマン』1~13巻発売中 藤本タツキ/集英社

『チェンソーマン』
1〜12巻発売中
©︎藤本タツキ/集英社

佐久間 マンガは毎週水曜日に『ジャンプ+』で真っ先に読んでいます。まず第2部の1話目からビックリしたんですけど、その後コミックスでも読むとまた感じ方が全然違って、そういえば『チェンソーマン』ってそうだったなと。面白いんだけど、「何これ?!」みたいな回もあったじゃないですか。

――第1部から第2部への展開はある程度予想されていましたか?

佐久間 いや、全然想像してなかったです。主人公が変わる可能性はあるかなと思ったけど、本当にそれぐらいです。だって、第1部の終わりに出てきたナユタでしたっけ?

 はい。

佐久間 まだ出てきてないですからね。

 気になりますよね。

佐久間 第1部のキャラクターが出てきてほしい気持ちはあるんですけど、チェンソーマンっていつ誰が死ぬかわからないから、登場したら死んじゃうかもしれないと思うと、ちょっと複雑ですよね。だから、吉田があんなに出てきているのは意外でした。

チェンソーマン 吉田登場場面
©︎藤本タツキ/集英社

 そうですね。僕は読者の楽しみを可能な限り奪いたくない側なので、何も言えないのですが、第2部が始まるというタイミングで、藤本さんと僕でいろいろなインタビューとかにお答えしたときは、「吉田が出ます」ということだけを言い続けてどうにか切り抜けました(笑)。

――では、テレビアニメはいかがですか。ご覧になっていますか?

佐久間 もちろん観てます。藤本先生の映画好きの要素がすごく出ているなと思いました。制作にタッチしているわけじゃないですよね?

 構成、脚本、絵コンテ、美術まで見させて頂いております。

佐久間 ああ、そうなんだ。だから、アニメのよさもたくさんあるんですけど、ちょっと実写映画のトーンが入っていて、僕はすごい好きです。いいなと思って観ています。

 そもそも監督の中山(竜)さんがその方向を目指してくれて、藤本さんもぜひぜひという感じでしたね。アニメ化に際して、藤本さんから何かリクエストを出すというよりは、やりたいと言われたことに対してリターンするという感じでした。藤本さんも僕もめちゃくちゃ面白いと思って観ています。実際、藤本さんはリアタイでツイートし始めましたからね。「トイレに行ってすっきりした」とか、それはつぶやかなくてもいいだろっていうのも中にはありますけど(笑)、でも彼らしいなと思います。連載で忙しいはずなのに、彼なりの応援なんだろうなって。


「1話目からこれやっちゃうんだ」(佐久間)

――林さんは藤本タツキ先生と出会ってからどれくらいになるのですか?

 彼が17歳の頃から担当しているので、13年目ですかね。

佐久間 13年目ですか。すごい。

――佐久間さんが藤本先生を知ったのはいつなんですか?

『ファイアパンチ』全8巻 藤本タツキ/集英社

『ファイアパンチ』全8巻
©︎藤本タツキ/集英社

佐久間 最初に知ったのは『ファイアパンチ』ですね。『ファイアパンチ』の第1話がめちゃくちゃバズっていましたもんね。

 バズリましたね。あの第1話で彼のことを知った人が多いと思います。それまでは読み切りを紙の雑誌でしか出したことがなくて、ほぼ反応がなかったという記憶です。

佐久間 そうですよね。ご多分に漏れず僕もそうだと思います。『ファイアパンチ』は漫画好きの友達から、「これ読んだ?」と薦められて。で、第1話を読んで、「うわ、すげえな。しょっぱなからこれやっちゃうんだ」と思ったのを覚えています。『ファイアパンチ』は最後までとても面白く読みましたけど、『チェンソーマン』が始まったときに、こっちのほうがデザインも優れているし、マンガとしての試みも新しくなっていて、数段面白くなっていると思ったんですよ。「あっ、これは編集者が才能を引き出したんだろうな」というのをすごい感じたというか。昔も鳥嶋(和彦)さんとか有名な編集者がいましたけど、やっぱりそれぞれの作家さんによってアプローチの仕方が違うんですか?

 違いますね。全員まったく違う仕事の仕方をしているので、たまに同業で飲むと面白いです。

佐久間 そうなんですね。僕の場合、芸人さんと関わることが多いですけど、例えば『ゴッドタン』で「マジ歌」という企画を作るときでも、芸人とディレクターのかかわり方はそれぞれ違うんですよ。ただ見守るだけの人もいるし、一緒にアイデアを出し合う人もいるし。

『ゴッドタン』テレビ東京

『ゴッドタン』
テレビ東京にて毎週土曜日25時50分放送中
【出演者】おぎやはぎ、劇団ひとりほか
2023年1月3日(火)23:30~24:55「ゴッドタン 芸人マジ歌選手権」放送

 僕も作家さんによって全部変えていますね。

佐久間 それは自分のやり方というよりも、作家さんのタイプに合わせて変えるということ?

 そうです。人によっては一緒にプロットまで考えてくださいという方もいらっしゃいますし、面白いかつまらないかだけ教えてくれという方もいらっしゃいますし、本当にバラバラなんですね。だから、僕はまず聞くようにしています。「どんなふうに打ち合わせするのがやりやすいですか」って。それで、この人には厳しめに言ったほうがいいのかなとか、この人にはこういうアドバイスしたほうがいいのかなと対応を変えています。コロナ禍になってなくなったんですけど、それまでは新年会みたいな感じで作家さんを歓待するパーティーがあって。そこで先生方皆さん一堂に会するので、僕、キャラに迷うんですよね。人によって接し方がバラバラなので、どっちのキャラでいこうみたいな感じで。だから、早めに酔っぱらったフリをしていました(笑)。


つまらないときにちゃんとつまらないと伝える(佐久間・林)

佐久間 でも、本当にそれは芸人さんとの付き合い方と近いかもしれないですね。芸人も打ち合わせの仕方から何から、僕のやり方というよりは芸人に合わせた正解を探していくという感じなので。

 そうですね。しかも、ステージによって変わっていったりもしますよね。まだ新人賞ステージのときと連載のときとでは関係性も変わる。だから、何ができるかずっと考えながらやっている感じです。これでいいのかな、お役に立てているのかなって。

佐久間 なるほどね。僕の場合、ちょっと違うのは、僕がゼロベースからつくって「当て」にいくこともけっこうあるんですよ。芸人さんに「プレーヤー」として出てもらうこともあるから、そのときはこの役割が欲しいんだということを言う。総じて僕の場合は仲良くなり過ぎないようにいていますね。

 芸人さんと?

佐久間 はい。それが決まりだと思います。つまらないときにお互いつまらないと言えるように。

佐久間宣行(テレビプロデューサー)×林士平(『少年ジャンプ+』編集者) 対談2

 それは本当にそうですね。

佐久間 やっぱりありますか?

 あります。作家さんが売れてくると周りがどんどん言わなくなるから、作家さんから逆に言われることもありますね。「ちゃんとこれ面白いですか?」とか「ファンが面白いと言っているからって面白いとは言わないでください」と言ってくる方もいらっしゃるので、逆にピリッとさせられるというか、ああ、遠慮したらダメなんだと。たぶんここでつまらないと言わなかったら、僕の役割はほぼいらなくなっちゃうので。作家さん自身、本当につまらないと確信しているものをあえて見せてくることもあって、そういうときに面白いと言ってしまったら、信頼がなくなるんですよね。とはいえ、べつに無理やりつまらないと言う必要はなくて。なので、迷いながら、でも自分の本心に従って、ちゃんと面白いかどうか、つまらなかったらどうすべきなのか、面白かったら何を強化すべきなのか、そういうことは伝えるようにしています。


売れる、売れないはわからない(林)

佐久間 マンガって、一話一話の面白さもありながら、数年かけてたどり着きたい場所みたいなのもありますよね?

 ありますね。

佐久間 作家さんによって全然違うと思うんですけど、一緒に組み立てるのか、それとも作家さんがたどり着きたい場所までサポートしていくというイメージなんですか?

 作品によりますね。遠くのゴールは決まっているけど、その途中のマイルストーンが何も決まってないことが多いので、そういう場合は「どうやってたどり着きます?」というのを定期的に議論して…という感じです。できる限り面白いルートをたどりたいので、定期的に長期の目線での話をするんですけど、長期の目標を決めたくないというか、言いたくないという人もいるんですよね。

佐久間 ちゃんと心の中では決まっていると。

 そうです。ちゃんと純粋に読んでほしいからという人がいるので。そういうときはあえて聞かずに、目の前の一話に集中して打ち合わせをするということもありますし、本当にバラバラですね。

佐久間宣行(テレビプロデューサー)×林士平(『少年ジャンプ+』編集者) 対談3

佐久間 マンガ編集の場合、作家さんと向き合って一話一話の面白さをつくっていくのと同時に、そのマンガを話題にしていく宣伝プロデューサーの側面もありますよね。

 はい。僕としては両方ずっとやっている感じです。作家さんは逆に宣伝のことを考える余裕はまるでないんですよ。こちらから都度「こういうことをやりたいのでやりますよ」というのを提示します。作家さんの協力が必要な場合は「すみませんがちょっと一日いただきます」とお願いしますが、それ以外はだいたいこっちがプランを用意して、「ここまでやっていいですよね?」というのを確認して進める感じです。

佐久間 一緒に仕事する作家さんで、「この部分をもっている人とは何か一緒にでかいものをつくれるな」という共通したものっていうのはあるんですか?

 それがないんですよね。ヒット作家で共通点とか、ヒットする作品の共通点とかよく聞かれるからちょいちょい考えるんですけど、ないんです。愚直にマジメに、ということですね。マンガの仕事がそもそもそういう構造になっているので、机に向かい続けている人しか生き残らない。描くのがしんどいという人はなかなか難しい。でも、そういう人でも売れている人がいるんですよね。こればっかりは本当にわからないです。

佐久間 売れる、売れないはわからないですよね。だから、僕は芸人のネタには口を出さないようにしているんですよ。責任を取れないから。芸人から「ここの部分どうですか?」と言われたときには正直に意見を言うし、自分の才能といわゆる現行バラエティの折り合いが付かない人にアドバイスみたいなことはするけど、ネタはその人本人の宝物だから口は出さないようにしている。それもあって、審査員の仕事は極力やらないようにしています。

 そうなんですね。


面白いと感じる瞬間はバラバラ(林)

佐久間 「わっ、これはすごいくるかも!」と思う瞬間というのは、やっぱり作品ごとに違うんですか?

 違うと思います。プロットでわかる面白さと、ネームじゃなきゃわからない面白さがやっぱりあって。例えば『よつばと!』みたいな漫画って、たぶんプロットの段階じゃ面白いかどうかわからない気がします。よつばちゃんのかわいさって動かさないとわからない。でも、『進撃の巨人』はたぶんプロットで読んでも面白いような気がするんですよね。だから企画とか作家の特性によって面白いと感じる瞬間はバラバラかなと。

『よつばと!』1~15巻発売中 『進撃の巨人』全34巻 諌山創/講談社

『よつばと!』
1~15巻発売中
©︎KIYOHIKO AZUMA/YOTUBA SUTAZIO

『進撃の巨人』全34巻
©︎諌山創/講談社

佐久間 『チェンソーマン』はどうだったんですか?

『SPY×FAMILY』1~10巻発売中 遠藤達哉/集英社

『SPY×FAMILY』
1~10巻発売中
©︎遠藤達哉/集英社

 『チェンソーマン』はたぶんプロットで読んでも面白いし、演出が加わってさらに面白いという印象はありました。本当に作家さんによって進め方が違うので、関わり方も変わってくるんですよ。藤本さんの場合は、打ち合わせで固めるところと、あえて自分からは何も言わないところがあって。ネームで読んだときに生で感じてほしいところは僕に言わないで、ネームにして見せてくる。でも、物語の構造で悩んだときはご相談いただくので、「僕としてはこういうことを期待します」とか「こういうふうになったら面白いと思います」と言うようにしています。『SPY×FAMILY』の遠藤(達哉)さんは、プロットから密に何度も何度も打ち合わせをするタイプです。お互いに矛盾点をずっと探すんですよ。キャラクターが知っている/知らないとか、心が読める/読めないとか。「こうなったらもうアウトじゃん」というパズルゲームみたいなところもあるので、そこはかなり綿密にやっています。それでもいざ描き始めたら、「えっ、これじゃダメじゃん」というのが見えてくるんですよね。だから結局、毎回締め切りに追われながら、大事な打合せを重ね続けています。

佐久間 『SPY×FAMILY』の遠藤先生は、ロジックの部分をけっこうしっかりつくってからじゃないと描けないタイプなんですね。

 すごい密に打ち合わせしながら、創っていただいてます。

佐久間 芸人さんの中には、絶対に自分の意見でしかやらない人もいるんですよ。こっちがアイデアを出し続けていると結果的に追い込んで退路を断っちゃうから、あえて、つまらないアイデアだけ出すという会議があるんですね。

 ハハハ、なるほど(笑)。

佐久間 間が持たないからアイデアを出すんだけど、仮に自分のとっておきのアイデアを出したとしても、それは絶対やろうとしない。例えば劇団ひとりとかがそうで、自分で生み出したものしかやらない。だから、彼が何か思いつくまでつまらないアイデアを出すしかないという(笑)。

 それでいうと、意図的に「壊す」打ち合わせはするかもしれないですね。ムダにあり得ないプロットをお伝えして、「それ、ありなんですか?」と聞かれたら、「なしだと思うんですけどね」と言いながら、一応お伝えするだけはすることはあります。


怒られるのが自分1人のほうが過激なものを出せる(佐久間)

――とんでもない才能っていうのは出てきた瞬間にわかるものなんですか?

 芸人さんは難しそうですよね。

佐久間 こっちは面白いと思っても、世間の反応は全然だったということはありますからね。それこそランジャタイとか、5年前ぐらいに番組に出てもらって、僕はめちゃくちゃ面白かったけど、全然ウケなかった。それはたぶん僕のアプローチの仕方が間違っていたんですよ。彼らを天才として出しちゃったからみんな身構えちゃったんだけど、本当はもっとアナーキストとして出すべきだった。最初の見せ方、リボンの掛け方が間違えていたんですよね。マヂカルラブリーがランジャタイと一緒に絡んだときがあって、マヂカルラブリーはランジャタイのことをクソ何もできないやつらとしてプレゼンしたんですよ。やじったりして。でも、やじっても心折れずに勝手なことやる。その構図がめちゃくちゃ面白くて。だから、マヂカルラブリーのランジャタイのプレゼンが正しかったんだろうなと思います。今はもうランジャタイは何をやっても大丈夫ですけど、若い才能と接するときは「これが世の中に対しての正しいプレゼンテーションなのだろうか」「才能を潰してないだろうか」みたいなことは常に考えますね。

――藤本先生はデビュー当時からとんでもない才能だなっていう感じだったんですか?

 若い頃は大量のボツを重ねていました。読み切りの6作目とか7作目くらいまでは、もう本当に毎週毎週ずっとボツみたいな時期があって。本人もめげずにずっと送り続けてくるので、すごいなと思いながらも、「毎週送ってこなくていいから、ちょっと考えようか」と言うこともありました。そういう新人さんはいるんですよね。やる気があり過ぎるというか。

佐久間 初期短編集が出ているから、当時の荒々しさもわかるんですけど、おそらく世の中にはまらないかもしれない過激な部分はもっとあったと思うんです。それを作品として出せるようにするまで、どうアプローチしていったんですか?

『藤本タツキ短編集 17-21』藤本タツキ/集英社 『藤本タツキ短編集 22-26』藤本タツキ/集英社

『藤本タツキ短編集 17-21』
©︎藤本タツキ/集英社

『藤本タツキ短編集 22-26』
©︎藤本タツキ/集英社

 作品ごとの議論になるんですけど、すごくシンプルにいうと、露悪的なものがメインディッシュなのはNGですよとか、物語上必要だったら描いていいですとか、そういう境界ラインは議論できるので、そのやり取りはしました。本人も、映画だったら、アニメだったらどのへんまで描いているかというのを把握しているので、そのラインを自分なりに見定めている感じでした。さすがに「これはまずいですよね」というのは全部お伝えして、それでも本人もわかって確信犯的にやっているときもあるので、「やっぱりそうですか」といって直すこともあれば、「いや、これは直したくないです」という場合もあって、そういうときは編集部内で「載せられますかね」みたいな相談をします。

佐久間 僕も『ゴッドタン』で途中からプロデューサーを兼任したのは、怒られるのが自分1人のほうが過激なものを出せるからなんですよ。最初はプロデューサーが別にいたんですけど、そうするとその人たちが怒られちゃうから。

 かわいそうですよね。

佐久間 かわいそうだったので、僕が全部やるようにしたんです。でも、自分がやるようになったことで、これはたぶん視聴率を取らないから怒られるだろうけど、あとでDVDでめちゃくちゃ売って鼻を明かしてやろうとか、そういうこともできるようになったから、よかったですけどね。


大事なのはキャラクター? それともストーリー展開?(佐久間)

 視聴率って本来の作品の人気と一致しないですよね。

佐久間 一致しないんですよ。特にこの10年で乖離してきましたね。熱量と視聴率は。

 漫画はたぶんぎりぎり一致しているんですよ。アクセス数とか評判を取ったものは基本的にそれに比例してコミックスも売れているんですけど、これがもしねじれてくると迷子になりそうだという気はします。

佐久間 だから、テレビは迷子なんだと思います。

 お金を払った人が偉いのか、それともチャンネルを合わせた人が偉いのかというのがちょっと難しい。さらにいうと、録画して観ている人が偉いのか、配信で観ている人が偉いのかという話もありますからね。

佐久間 そう、指標が難しくて。でも、いまだに視聴率の数字を見てスポンサーがつくんですよね。

 そうなんですね。DVDにはスポンサーの広告が入らないですもんね。

佐久間宣行(テレビプロデューサー)×林士平(『少年ジャンプ+』編集者) 対談6

佐久間 その中でどの指標をうまく組み合わせて、自分で勝負するのか、もしくは会社を説得するのかを考えなくてはいけないので、やりたいことのために何をするのかというのをうまく組み合わせられるプロデューサーじゃないと残っていけない時代ですよね。

 漫画の場合、作家さんと話しているゴールに関しては、「コミックスの部数」にしていることが多いです。お金を払ってくれたお客さんが僕らにとっては一番大切にするべきお客さんだろうと。もちろん最初はスマホとかで無料で読んでくれて、そこからちゃんとお金を払ってくれるお客さんに変わっていくこともあるので、両方大事なんですけど、どっちが本当に一番大事なのといったら、コミックスを買ってくれた人ですよね、というのは話すようにしています。

佐久間 作品によって違うでしょうけど、無料のお客さんからお金を払ってくれるお客さんに転化するのって、作品のどの部分がいちばん大きいんですか? キャラクターなのか、それとも展開なのか。

 これもいろいろあるんですよね。例えば『よつばと!』を読んでいても意外な展開で驚く…ってことはないじゃないですか。でも、キャラがかわいいから、お金払って買おうとなる作品ですよね。

佐久間 『よつばと!』は永遠に本棚に置いておきたい。

『SLAM DUNK新装再編版』全20巻

『SLAM DUNK新装再編版』全20巻
 ©︎井上雄彦/集英社

 はい、ずっと手元に置くコミックスかと。『スラムダンク』とかは展開の驚きはちゃんとあるし、キャラも魅力的だから、両方な気がします。キャラ一点突破でも全然でかい部数が出せるので、「キャラだ。とにかくキャラのことを考えろ」と言い続ける人もいますけど、僕はドラマ派なんですよね。キャラよりもドラマのほうに興味がある。でも、最終的に思うのは、キャラもドラマも大事で、二者択一ではないということです。キャラが大事なのか、プロットが大事なのかという議論もよくあるんですけど、両方大事なんですよね。どっちもずっと考え続けるしかないということはよく作家さんと話します。

佐久間 番組の場合、何で勝つかは時間帯が大きいですね。全部面白いのがベストなんですけど、例えば60分あったとして、「最後の10分のこの話題だけで番組は成り立つから、この10分に振り込んでいきます」みたいなのはたまにはやります。特に配信の場合は一点突破したそこの部分を観てもらえる状態にならないとなかなか勝てない。リアルタイムで深夜バラエティは観られないし、ほとんど後追いなので、こういうやり方をしないと観てくれないんですよ。逆に『トークサバイバー!』みたいにNetflixでやったりする場合は初速をつくったほうが観てもらえるというのはありますね。

『トークサバイバー!~トークが面白いと生き残れるドラマ』

Netflixコメディシリーズ
『トークサバイバー!~トークが面白いと生き残れるドラマ』
シーズン1独占配信中、シーズン2制作決定

――Netflixの話でちょっとお聞きしたいんですけど、すべてのエピソードを一気に配信するパターンと、毎週1話ずつ配信するパターンがありますけど、あれはどういう戦略なんですか?

佐久間 このソフトで2カ月にわたって会員でいてもらうことが大事なのか、それとも一気にキラーコンテンツにして残ってもらうのがいいのか、その違いだと思います。でも、サブスクは一挙配信だけじゃなくて、毎週提供するものに徐々に変わっていくんじゃないかな。たぶん昔のテレビの機能をサブスクは持とうとしていると思います。だから、そのうちやるんじゃないですかね、毎週のバラエティとか。

 そっちのほうがファンが増えていく印象がありますよね。

佐久間 そうだと思います。2カ月金を払わなきゃいけないんだったら全部揃ってから観るという人が多いから、今は一気に配信するものがメインだったりするけど、たぶん徐々に連載というスタイルを各サブスク会社が取っていくんじゃないですかね。


尾田先生はエネルギーの塊(林)

――今の漫画って映像化がセットというか、連載を始める時点でそこまで見据えているんですか?

 考えている人は考えているんじゃないですかね。僕はそこがゴールになってしまうと何かブレそうな気もするので、作家さんには基礎知識としてだけお渡しするようにしています。今アニメになっている作品とか、この数年でアニメになった作品はどんなもので、その中でどういう結果が出たか、みたいな感じで。結局、漫画として面白ければどうにでもなるよねという話なんですけど、アニメ化がゴールだと思っている作家さんはもちろんいるので、その場合はどうすればアニメにしやすいかをちゃんと話すようにしています。でも、これは僕の感触ですけど、絶対アニメ化したいという人は半分以下くらいですかね。

佐久間 そんな感じですか。

 ですね。アニメになったらありがたいですねぐらいの感覚で、面白い漫画を描きたいというほうが多いですね。アニメ化されるとやることが増えますし。本当に死にそうになりますから。

佐久間 そう考えると、尾田(栄一郎)先生ってすごいですね。

 とんでもない作家さんですよ、本当に。創作エネルギーの塊だと思います。

佐久間 すごいですよね。映画にも自分でコミットしていくという。

 驚きですよね。あんな先生は二度と出ないんじゃないかな。エネルギーの総量に圧倒されます。だいたい週刊連載って1年やったらみんな死にそうになるので。それをあれだけ長きにわたって続けて、もうすでに十分なキャリアがあるのに、さらにあそこまで映画に関わって良いものにしていこうとする作家さんって本当に素晴らしいと思います。

佐久間宣行(テレビプロデューサー)×林士平(『少年ジャンプ+』編集者) 対談4

――マンガのアニメ化の流れは加速していると思うんですけど、どういう理由があるのですか?

佐久間 やっぱりアニメがシーズン制になったのが大きいんじゃないかなと思います。要は1期だけアニメにすることが普通にできるようになったというか。僕らが子供の頃は最低2クールやるとか、打ち切られるまではやるみたいな感じがあったけど、シーズン1、シーズン2という区切り方をするようになって、しかも僕らも普通にそれを待てるようになったから、アニメとマンガのフェーズって変わったんじゃないかと思いますね。クオリティも上がったし。

 そうですね。アニメオリジナルの展開をやらない作品も増えましたね。

佐久間 そうそう。やっぱりアニメオリジナルの展開で離れるとかってありました。

 アニメオリジナルはまた違った大変さがあります。巻数浅めでアニメが決まって、6巻前後で2クールつくるぞ、半分オリジナルになりますよというときの脚本の打ち合わせはもう大変で、大変で……。

佐久間 それが少なくなったので、マンガとアニメの幸福な関係が加速したんだと思います。

――アニメ化と異なり、マンガが実写ドラマ化されるケースも多いですよね。「マンガ→アニメ化」と、「マンガ→実写ドラマ化」とでは、どういう違いがあるんですか? 

佐久間 実写化の場合は実写化の企画が持ち込まれてくるんですよね。

 そうです。アニメ版権、実写版権、あと舞台版権があるので、それをバラバラで売るんです。アニメが好評だから実写をつくりたいですという感じでお話をいただくことが多いですね。

佐久間 けっこうあるのは、いい漫画だと思ってドラマの権利を押さえに行こうとすると、アニメが先にやってからしかやりたくないとか言われることはあります。

 たぶん編集者サイドとしては、アニメ化を待ってほしいと言っちゃいますね。不思議なんですけど、実写化よりアニメ化のほうがコミックスの数字が動くんですよ。なので、先にアニメをやってから実写でお願いしますとお戻しすることが多いですね。


『チェンソーマン』の地獄の描写には度肝を抜かれた(佐久間)

――『チェンソーマン』の場合、部数が動いたのはどの段階ですか?

 実は最終巻付近なんです。それまではじわじわとまあまあいい部数という状況で、終わる直前ぐらいから急に風が一気に吹いてきて、バンといきました。「このマンガがすごい!」で1位を獲ったのもあって、より一層ファンが広がったという感じですね。

佐久間 「このタイミングで地獄に行くんだ!」というのはびっくりしましたね。『チェンソーマン』自体が、いわゆる漫画読みの想像するストーリーとは逸脱していたけど、それにしてもここで地獄行くんだって。地獄の描写にも本当に度肝を抜かれました。

チェンソーマン「このタイミングで地獄に行くんだ!」 1
©︎藤本タツキ/集英社

 地獄の描写は本人的にもけっこう大変だったと思います。藤本さんから、「林さん、地獄って何を思い浮かべます?」と聞かれて、たぶんそういうときって僕が言ったことを描かないつもりで聞いているんですけど、「一般的に思いつくのはこうだよね」とか「意外性を求めるならこうだよね」という話をしたのを覚えています。

佐久間 このときの『週刊少年ジャンプ』は恐ろしかったですよね。『鬼滅の刃』がクライマックスに向かっていて、『呪術廻戦』もあって、『チェンソーマン』ですから。どれも面白い!! みたいな感じでした。

『鬼滅の刃』全23巻 ©︎吾峠呼世晴/集英社 『呪術廻戦』1~21巻発売中 ©︎芥見下々/集英社

『鬼滅の刃』全23巻
©︎吾峠呼世晴/集英社

『呪術廻戦』1~21巻発売中
©︎芥見下々/集英社

 その頃の『チェンソーマン』はアンケートのランキングが特別高いわけではなかったので、連載序盤は打ち切りにはならないかけっこうヒヤヒヤしていましたけどね(笑)。

――作家さんって、他の人気の作品というのはどこまで意識しているんですか?

 口にするかどうかは置いておいて、たぶんみんな読んではいるんじゃないですかね。藤本さんはたぶん読まれていたと思います。でも、『SPY×FAMILY』の遠藤さんは『ジャンプ』の作品をそんなに読んでいるイメージはなくて、そういう話もしないです。だから、人によるのかな。

――作家さん同士、面識はあるんですか?

 コロナ禍の前までは新年会があったので、そこで知り合ったりすることはありましたけど、今はそれがないので、機会は明らかに少なくなったと思います。僕も若手の作家の顔とか知らないですし。そもそも自分の担当作家さんでめっちゃ打ち合わせしているのに顔を見たことない方とかもザラにいるので。

佐久間 そうなんですか!?

 連載が決まったときに初めて会いに行くってことも当たり前なので、地方在住の作家さんは本当に会わないですね。まだ1回しか会ってない連載作家さんもいます。電話だけはめちゃくちゃしているから、べつに心の距離としては近いんですけど。藤本さんも新人の頃は地方に住んでいたので、年に1回会うか会わないかでした。『ファイアパンチ』の連載のときに上京してきて、そのとき一緒に家探しを手伝って、「この街は映画館もあるし、おすすめです」みたいな感じでご紹介しました。


売れて天狗になる人はだいたい若手の頃から多少イヤなやつ(佐久間)

――新人の頃に出会った作家さんや芸人さんがやがて売れっ子になった場合、関係性は変わったりするんですか?

佐久間 僕は変わらないですね。もともとそこまで仲良くならないので。仲はいいですけど、プライベートを一緒に過ごすという芸人さんはほぼいない。だから、千鳥にしてもオードリーにしても、関係性はずっと変わらないままここまできています。

 打ち合わせと現場だけで会うっていう感じなんですか?

佐久間 そうですね。ただ、それが正解かどうかはわからなくて。芸人と一緒にゴルフに行ったり、飲みに行ったりするディレクターはたくさんいますし。たまに相談に乗って欲しいと言われてご飯を食べに行くことはありますけど、基本はプライベートは分けてますね。

――こっちは変わらなくても、相手が売れて天狗になるみたいなことはないんですか?

佐久間 天狗になるってことはあまりないんですけど、たぶん芸人さんはいろいろな現場で、いろいろな思いをして疑心暗鬼になることはあるんですよ。「その企画は本当に俺のことを思っているの?」とか「これをそのままやったら俺、スベるんじゃない?」とか。急に売れると考える時間もなくなるから、どんどん自分しか信用しなくなっていくタイプの芸人さんもいるし、逆に他人に任せたほうがラクだからどんどん任せることになって主体性がなくなっていく芸人さんもいるし。結局、そのバランスが取れている人が残っているんですけどね。ただ、昔と違うのは、今は『M-1』とか賞レースで優勝すると一気に仕事が増えるから、そういう人たちは半年ぐらい何にも考えられないぐらい働くので、その時期の接し方は考えます。僕が知る限り、売れて天狗になるみたいな人はないかな。売れて天狗になる人はだいたい若手の頃から多少イヤなやつなんだと思います(笑)。

佐久間宣行(テレビプロデューサー)×林士平(『少年ジャンプ+』編集者) 対談5

 僕、入社2年目ぐらいのときに『ジャンプSQ』の創刊メンバーで一番下っ端だったんですよ。編集長から好きな記事をやっていいよと言われて、会いたい芸人さんとゲームをするという企画を出したんです。その芸人さんというのが、すごく売れるちょっと前のバナナマンさんで、毎月1時間ゲームして、撮影して、終了みたいな、ただただ楽しい企画だったんですけど、バナナマンさんがカメラが回っているときと、僕と打ち合わせをしている時とで本当に何も変わらないので、ビックリしたんですよね。何もかも変わらないし、普段の会話がこんなに面白い人たちがいるんだって。その後バーンと売れて、あまりにもスケジュールが取りづらくなって3年ほどで連載は終わってしまったんですけど、ずっと変わらなかったですね。

佐久間 バナナマンはずっとクレバーですよね。自分たちの中でこれが損か得かをちゃんとジャッジできる人たちだし。そういう意味でいうと、僕が仕事で出会ったおぎやはぎも劇団ひとりもバカリズムもあまり変わらないですね。東京03は1回失敗して、最後の思い出で組んだトリオなので、ブレながら何とかちょっとずつ自分たちの今のポジションを築いてきたという意味では変化していますけど、芸人さんはだいたい自分が自分のプロデューサーでもあるから、客観視点もみんな持っているんですよ。


みんなが面白いと言った人はどこかで日の目を見る(佐久間)

――面白い人は最終的に売れるということですか?

佐久間 最終的には売れますね。みんなが面白いと言った人はどこかで日の目を見ます。40歳までかかっちゃったりするけど、でもほかの仕事より悲しい思いをすることは少ないかもしれないです。賞レースも、この人たちが獲ってないとおかしいよねという人たちがほぼみんな獲ったから、若手が群雄割拠できるようになったし。賞レース以外の道で生きたい人たちも、YouTubeとかで「自分のこれが面白いんですよ」という色を出せるようになっている。それきっかけで呼ばれる機会も明らかに増えてきています。お笑い界のレベルは総じて上がっているとは思いますね。

――マンガ界はどうなんですか? お笑いの世界のように最終的に売れるということはあるんですか?

 マンガの場合、最初は読み切りを何本も何本も発表して、結果が出た人が連載に移行します。連載で面白くなかったらそれを打ち切って次の作品を描いて、そうやって3作目、4作目で当たる人もいれば、途中で諦めてしまう人もいて。何も言わずに消えてしまう人はたくさんいますね。

佐久間 お笑いの人たちの場合は、みんな最初に憧れるものがあって、そこにはなれないという挫折から始まることが多いんですよ。例えばハライチは、早い段階で王道だと売れるのに時間がかかると判断して、自分たちのこの部分がウケるからその部分だけでネタをつくろうと決めて、実際に売れました。オードリーは、最初は普通に掛け合いの漫才をやっていたけど、全然ウケなくて、ウケているのは春日が間違えたところだけ、みたいなところに気づいて、そこを漫才にしたらブレイクしたんですよ。ただ、オードリーは20代のときのクソみたいな思い出があるから、それがバックボーンとなっていろいろな話しができるというのもあって。自分に合わせた芸風を確立するのはタイミングによりますけど、それを確立できた人は絶対売れているという感じです。マンガ家さんの場合、それは作風というものに出てくるのかもしれないですけど。

 そうですね。そのために何を選ぶのか、どんな絵でいくのかというものをたぶん探している人がほとんどです。絵に関しては変わることのできる範囲に限界があるんですけど、がらっと変えられる人もいますから。

佐久間 『東京卍リベンジャーズ』の和久井(健)先生とかそうですよね。『新宿スワン』を描いた人だけど、全然作風が違う。

『東京卍リベンジャーズ』全30巻 和久井健/講談社 『新宿スワン 歌舞伎町スカウトサバイバル』全37巻 和久井健/講談社

『東京卍リベンジャーズ』
全30巻
©︎和久井健/講談社

『新宿スワン 歌舞伎町
スカウトサバイバル』
全38巻
©︎和久井健/講談社

 言われないと気づかない人っているとは思います。それぐらい『東京卍リベンジャーズ』で少年誌の読者を意識した絵に変わりましたよね。


満場一致で決まった連載は今までに2本だけ(林)

――少し前にヒットに法則はないという話をされていましたが、実際にお二人ともヒット作を数多く手がけています。何か秘訣はあるのですか?

 ないですね。基本的には作家さんの努力であって、あとは運かなと思いながらやっています。たまに思うのが、これって麻雀に近いのかなって。運がなくて負けが込んでいるときはどうにか自分のポジションを守って、うまくいっているときはちょっと大胆に攻めたりするところは僕の場合あって、そこはギャンブルの感覚に近い気がします。だから、験を担ぐこともありますね。マンガの神様に嫌われたりしないだろうかみたいな感じで。

佐久間 芸能の人もそういうところはありますね。あとで運が悪くなるような行動だけは取らないようにしようみたいな。だから、残っている人はみんないい人なんだと思います。

 めちゃくちゃありますね。

佐久間 うん。いい人が残っていくというのはやっぱりそういう理由もあるかもしれない。幸い僕もいろいろな若手の人たちと接したりして、「佐久間さんの企画で売れるきっかけになりました。ありがとうございます」と言われることがあって、たまにそこだけニュースになったりするけど、でも売れるって複合的なことですよね。1回の企画じゃないというのはわかっているから、絶対に自分の力だけとは思わないですよ。賞レースは別だけど、芸人とか1人の人間が売れるためには、複合的な波をつくって、それが定着してはじめて売れるので。

――売れるのは時代状況や社会環境も大きく関わってくると思うのですが、そこはどうとらえていますか?

 負け惜しみみたいな感じですけど、作家さんを勇気づける意味も込めて、「時代にかみ合わなかった」「早過ぎました」というのはよく言っていますね。自分は面白いと思っても、売れないときってあるんですよね。

佐久間 やっぱりわからないですよね。強いて言うと、過去にいい結果が出たときって、実は最初から満場一致だったってことが1回もないんですよ。世間で評価されたからみんな面白いと言うけど、会議の段階ではわりときょとんとしている人は多かったりします。

『青の祓魔師』全28巻 加藤和恵/集英社

『青の祓魔師』全28巻
©︎加藤和恵/集英社

 そうなんですよ。僕も今までの編集者人生で満場一致の連載ネームって2本ぐらいしかなくて。1本目が『青の祓魔師』で、2本目が『SPY×FAMILY』。僕も佐久間さんと同じで満場一致って怖いと思うんですけど、全員がマジで満場一致だと売れるんですよね。もう若手から上まで全員が「やられた!これはもうお手上げ!」みたいな感じのときは、スタートダッシュでバーンといくんです。あと、上司がその状態だから宣伝費がつく(笑)。1巻から宣伝費をぶち込めるんですよ。

佐久間 なるほどね。

 ただ、逆に言うとその2本しか今までなくて、それ以外はだいたい割れているというか。『チェンソーマン』ってたぶん2人くらいしかプッシュしてくれなかった気がします。16年くらいやって、その2本しかないんだから、なかなか満場一致型のヒット作を生み出すのは難しいなという感じですよね。


信じられない飛距離の大ホームランを打つために(佐久間)

佐久間 本当にやってみないとわからない。僕もYouTubeをやってみてはじめて、YouTubeってこんなに修羅の世界なんだとわかったし。どういう例え方をしたらいいかわからないけど、マインドが荒れているというか、そういうものが好まれますよね。「ブレイキングダウン」が人気なのは納得だなって。なので、口喧嘩は観られるだろうなと思って、口喧嘩企画をやったらやっぱり100万再生を超えるんですよ。

『BREAKING DOWN』

『BreakingDown』
YouTubeチャンネル@BreakingDown_officialにて配信
BreakingDown7を2023年2月に開催。@breakingdown_jpで最新情報をお届け

 ちょっと過剰なもののほうが人気ありますよね。

佐久間 「ブレイキングダウン」は、要はガチンコじゃないですか。だから、今のコンプラでできないものをYouTubeに求めれば当たるのかなって。だけど、どんどん修羅になっているなと思いますね。

――ある程度の予測はできても、確実にこれがヒットするというのはなかなかわからないんですね。

佐久間 ヒットメーカーと言われている秋元(康)さんとか川村(元気)さんを見ていても、自分の中にある手札の中で、全力で振れるものは時代に関係なく振っていって、当たったらホームランだった、みたいなことじゃないと大ホームランを生んでない感じがします。要は時代に合わせてスイングしちゃうと、ツーベースがいいところなんだと思います。

 お二人とも手数が多いですよね。どれだけの打合せを重ねているんだろうと思っちゃいますね。

佐久間 そう。あそこまでの手数をやれるのは、実績があるからだろうけど、でも手数が多い人たちは、特に秋元さんを見ていると、スイングが鈍くなるくらいなら三振でもいいというつもりで振っている気がしますね。だから、当たったときにとんでもないものが生まれる。決して時流を見て、当てにいくようなことはしてないと思います。

 自分の得意分野に引きずり込んでいる感じもしますよね。

佐久間 そうそう。それをしているから、本当に信じられない飛距離の大ホームランを打てるんだと思います。自分の得意分野という話で言うと、お笑いの場合はやっぱり松本(人志)さんがヒットメーカーになってくるんですけど、松本さんの場合、本人が天才で面白いうえに、自分でルールをつくっちゃっているじゃないですか。だって、大喜利の『IPPONグランプリ』もトークの『すべらない話』も、すべて松本さんがルールをつくってますよね。これはオードリーの若林くんが言ってたんですけど、天下を取る人って自分の教科書を世間に押しつけられる強さがある人なんですよ。じゃないと、天下は取れない。他人のルールで戦っているかぎりは覇権を取れないんですよね。

『IPPON グランプリ』©︎フジテレビ 『人志松本のすべらない話』 ©︎フジテレビ

『IPPON グランプリ19』
/よしもとミュージック

『人志松本のすべらない話
第34回大会完全版』
/よしもとミュージック

 マンガの場合は、なかなかひとつの教科書というものはつくれないですね。幸い僕はいろいろな作家さんといろいろなトライができるので、今の時流とかけ離れたところにボールを投げることもできるし、時流をとらえてそのちょっと先にボールを投げてみることもできる。死屍累々のジャンルですけど、『鬼滅』と『呪術』と『チェンソーマン』を徹底的に分析して、新たにバトル物を定義し直いたいという作家さんがいればトライできるし、もしかしたらそこからヒット作が生まれるかもしれない。だから、ホラー物だったらどうなるとか、ラブコメディーだったらどうなるとか、ジャンルによってバラバラですね。


信頼しているのは北九州のおばちゃん(佐久間)

――面白い作品との出会いはどのように意識しているんですか?

 僕の場合、作家さんもそうですし、アニメのプロデューサーさんとか、お仕事で出会う人たちがいろいろな作品を観ているので、打ち合わせで「あれ、観ましたか?」という話になることが多くて。特定の作品が2~3回続けて出てきたら、メモって観るようにしています。ただ、あまりにも多くて、全然観終わらないですよね。

佐久間 いや、本当に無理。地上波のドラマ2本と配信ドラマをそのときそのときで1本か2本観ていたら、もう終わりです。

 そうなんです。昔あんなに観ていたのに。だから、弱くなっている恐怖がけっこうあります。読む量、観る量が減っちゃったなという。

佐久間 それはしょうがないなと思っています。飲み会を断りまくって、映画や舞台を観るとかじゃないと時間はつくれないですね。配信ドラマが増えたぶん、書籍をなかなか読まなくなって、ゲームの数がちょっと減りました。ある程度絞らないともう無理ですね。ただ、僕はSNSで自分の好きな作品を検索して、すげえ意見が合うなと思った人を何人かブックマークしていて。その人が勧めたもので3つ以上感想があったら、たとえ興味なくても観るようにしているんですよ。

 そんな人がいるんですか。

佐久間 北九州の自分の同年代の女性とか。俺が勝手に一方的にフォローしている人がだいたい20人ぐらいいますね。みなさん一般のエンタメ好きな人たちです。

 僕も「ブクログ」とかでたまに同じことをやっちゃいます。自分の好きな本でいいレビューを書いていたら、この人は何を他に気に入っているんだろうって探してみたり。

佐久間 そんな感じですね。

――ずっと固定のメンバーなんですか?

佐久間 いや、どんどん入れ替わっていきます。ライフスタイルが変わって書かなくなる人もいますし、僕自身も好みが変わるので。だから、常時15人か20人いるという感じです。


最近面白かった漫画は「スキップとローファー」(林)

――最近面白かったマンガ作品って何ですか?

『クジマ歌えば家ほろろ』1~2巻発売中 紺野アキラ/小学館

『クジマ歌えば家ほろろ』
1~2巻発売中
©︎紺野アキラ/小学館

佐久間 『クジマ歌えば家ほろろ』は面白かったですね。謎の生物クジマが住み着いた一家の物語なのですが、癒されますし、ちょっとグッときます。

『スキップとローファー』1~7巻発売中 高松美咲/講談社

『スキップとローファー』
1~7巻発売中
©︎高松美咲/講談社

 僕は『スキップとローファー』をすごい楽しみにしていますね。

佐久間 あぁ、面白いですよね。

 もう展開が素晴らしすぎて。アニメ化が決まっているんですけど、絶対に成功してほしいですし、どこが実写ドラマ化するんだろうなって気になってしまうぐらいに好きです(笑)。

佐久間 『スキップとローファー』は僕も買ってみんなに配りましたね。3巻ぐらいの時点で。

『ワンダンス』1~9巻発売中 珈琲/講談社

『ワンダンス』1~9巻発売中
©︎珈琲/講談社

 あとは『ワンダンス』も面白いです。すごい丁寧にストリートダンスというか、競技ダンスを描いていて、その絵が凄まじいんですよ。あれも実写化したら面白いんじゃないかなと思いつつ、カロリーが高すぎるので、誰も手を出せないのかなと。まぁ、とにかくいっぱいあり過ぎますね。

佐久間 いっぱいありすぎますよね。折に触れて読み返す作品もありますし。

 例えば何ですか?

佐久間 羽海野(チカ)先生とか、よしなが(ふみ)先生の作品ですね。

『大奥』全19巻 よしなが ふみ/白泉社 

『大奥』全19巻
©︎よしなが ふみ/白泉社

 よしながふみさんも素晴らしいですよね。『大奥』は本当にすごい作品でした。

佐久間 いや、本当ですよ。あそこであんな着地するなんて思わなかった。

 もう素晴らし過ぎましたね。『大奥』に関しては今の2倍ぐらい売れていいんじゃないのって思います。

佐久間 今度、NHKでドラマ化されますよね。

 最後までちゃんとやってくれるんですかね。

佐久間 するという話だけど、どこまでやるのかな。

 最後までやってほしいですね。今から楽しみです。


佐久間宣行(テレビプロデューサー)

佐久間宣行/
テレビプロデューサー、演出家、作家、ラジオパーソナリティ

1975年福島県いわき市生まれ。99年にテレビ東京入社。2021年にフリーに。『ゴッドタン』『あちこちオードリー』『ウレロ☆シリーズ』『トークサバイバー!〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜』などを手がける。2019年4月からラジオ「佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)」のパーソナリティを担当。YouTubeチャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』も人気。近著に『脱サラパーソナリティ、テレビを飛び出す~佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)2021-2022~』がある。

Twitter:@nobrock
Instagram:@nobrock1
YouTube:『佐久間宣行のNOBROCK TV』


林士平(『少年ジャンプ+』編集者)

林士平/マンガ編集者
1982年東京都生まれ。2006年に集英社に入社。月刊少年ジャンプ、ジャンプスクエア、少年ジャンプ+で漫画編集を手がける。現在の担当作品は『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』『HEART GEAR』 『神のまにまに』『アンテン様の腹の中』『全部ぶっ壊す』『宇宙の卵』 『ベイビーブルーパー』『幼稚園WARS』など。過去の担当作品は『青の祓魔師』『この音とまれ!』『ファイアパンチ』『怪物事変』『左ききのエレン』『地獄楽』『カッコカワイイ宣言!など。

Twitter:@shiheilin



Photos:Teppei Hoshida
Interview & Text:Masayuki Sawada

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