斬新なキャラクター造形に、ダイナミックなアクションシーン、意表を突きまくりのストーリー展開。いま最も注目すべきマンガ『チェンソーマン』。第2部スタート、そして待望のアニメ化など、怒濤の快進撃を続ける衝撃作の魅力とは何なのか? アニメ・原作関係者、ファンなど9人が熱すぎる思いを激白する。
牛尾憲輔(TVアニメ『チェンソーマン』音楽担当) 出来上がった曲を切り刻んでぐちゃぐちゃにする
オファーをいただいたときは、やはりとても話題の作品なので、純粋にうれしかったし、緊張しました。今まではこういうブルータルな方向の作品の劇伴を多くはやってこなかったのですが、あらためて原作を読み直して、自分にもやれることがあるなというふうに思いました。
僕はもともとソロのアーティストとして活動していて、劇伴もやるようになったとはいえ、何でもかんでもできるわけじゃないんです。「ジャズで」と言われても困るし、「パンクロックで」と言われてもできない。どこまでいってもヨーロッパのダンスカルチャーがベースにあって、そういうこれまでの自分の人生の音楽フォルダの中でできることがありそうだと思ったから、参加させていただきました。例えばクリス・カニンガムが撮ったエイフェックス・ツインのMVとか、攻撃的な音楽や映像のイメージが自分の中でちゃんと思い描けたので、そういうところからつくっていったら面白いだろうなって思ったんです。
具体的にどういう音をイメージしたかというと、特にバトルシーンがそうなんですけど、原作を読んだときに「めちゃくちゃだな!?」とまず思ったんです。血しぶきが飛び散って、人がどんどん死ぬし、「何じゃこりゃ!?」みたいな世界なので、音楽でもそのカオスな感じは取り入れようと思いました。出来上がった曲を切り刻んでぐちゃぐちゃにするみたいな、それこそ曲の波形単位で全部細かく切り刻んですりつぶしていくような手法でつくろうと思って、実際にそれが一つのコンセプトになっています。中山監督からは「実写的な感じにしたい」という話を聞いていたので、音楽においてもその方向性に従おうとしました。そういう意味でも、かなり変わった手触りのものになっていると思います。
僕はアニメ作品と実写作品のどちらの劇伴も担当させていただくことがあります。作曲する内容は同じですが、実はこの二つ、大きく違う点があるんです。まず、実写、特に映画の場合は、撮影した映像をいただいて曲をつくっていきます。なので、その時点で登場人物は動いているし、風の音とか衣擦れの音とか撮影現場の効果音が少しのっているんですね。一方で、アニメの場合は、僕が作業する段階ではまだ声優さんの声や効果音が入っているわけではないので、この違いによる影響はものすごく大きくあります。ほかにもこれはちょっとマニアックな話ですけど、例えば人が歩くとき、常に一定の間隔で歩いているわけではないですよね。でも、アニメは何ミリ秒ごとに足がつく、というように決まっている。だから、実写で人が歩いているときに合わせる音楽ってちょっとフリーにやらなきゃいけなかったりするけど、アニメは1小節、2小節、四分音符、二分音符…の単位で曲を書きやすい。映像から逆算される音楽がグリッドなのか、アングリッドなのか。もちろん、どちらもその要素はあるものの、比率は違うような気がしますね。
今回の『チェンソーマン』ではいろいろと新しいことに挑戦しているのですが、音の奥行きという部分はかなり考えました。ここ20年でテレビってすごく薄くなったじゃないですか。薄いと物理的に低音が出ないんですけど、昨今のテレビはちょっとずつ低音が出るようになってきたと言われているので、それを信じて、音に奥行きをもたせることを意識しました。例えばクリストファー・ノーランの映画って、もうほとんどずっと低音だったりするじゃないですか。ゴーゴーゴーと地鳴りのような音というか、ああいう方向を踏まえた音のつくり方に挑戦しています。全体の調整は音響監督さんマターなので、僕が偉そうに言える話ではありませんが、とにかく音の奥行きが出るように苦心しています。かなりチャレンジングなことですが、音に関してはもうチーム全員が心のモヒカンを立てて、「やったろーや」って心意気でやっていると思うので(笑)、そこも注目してもらえるとうれしいです。
こうしてインタビューを受けている今もまさにon goingで曲を書いているのですが、今回の『チェンソーマン』を象徴する曲はどれかと言われたら、個人的には「edge of chainsaw」だと思います。この曲は田渕ひさ子さん(NUMBER GIRL、toddle)にギターで参加してもらって、いわゆるギターが前面に出たインダストリアルなものなんですけど、おそらく一般的に求められているであろう『チェンソーマン』の音楽というものに到達できた曲なのかなと。ぜひ聴いてみてください。
©︎藤本タツキ/集英社・MAPPA
TVアニメ『チェンソーマン』 毎週火曜24時よりテレビ東京ほかにて放送中。25時よりPrime Videoにて最速配信。
KENSUKE USHIO
作曲家。ソロユニット「agraph」としても活動。近年は多くのアニメ作品の劇伴を手がける。主な劇伴に、TVアニメ「ピンポン」、アニメ映画『リズと青い鳥』、Netflixオリジナルアニメ「日本沈没2020」、TVアニメ「平家物語」、実写映画『子供はわかってあげない』など。現在、『チェンソーマン』のサウンドトラックが順次配信リリース中。
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