2022.11.02

ジョージ・クルーニー&ジュリア・ロバーツの“オーシャンズ夫婦”が仲の悪い元夫婦になって帰ってきた!?【ジェーン・スー&高橋芳朗 ラブコメ映画講座 #55『チケット・トゥ・パラダイス』】

早くも世界興行収入1億円を突破した最新作をピックアップ! ジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツの豪華共演は見逃せない。

『チケット・トゥ・パラダイス』(2022年)

ラブコメ ジョージ・クルーニー ジュリア・ロバーツ

--大物俳優ダブル主演の劇場最新作『チケット・トゥ・パラダイス』です。

ジェーン・スー(以下、スー):ここ数年はコロナ禍だったこともあって、久しぶりの海外リゾートの映像にうっとりしちゃった。撮影たいへんだったろうなあ! 私は旅に出たくなったよ。遅い夏休みにバリ島へ行こうと思ってたこともあったんだよね。

高橋芳朗(以下、高橋):なるほど、そういう需要を満たす映画でもあるんだね。では、まずは簡単にあらすじを。「デヴィッド(ジョージ・クルーニー)とジョージア(ジュリア・ロバーツ)は20年前に離婚した元夫婦。必要に迫られて会ってもいがみ合ってばかり。そんなふたりの愛娘リリー(ケイトリン・デヴァー)がロースクールを卒業して、その記念旅行としてバリ島へ。数日後、彼女から『現地で知り合った彼と結婚する』との連絡を受けたふたりは急遽南国の島へ行くことに。弁護士になる未来を捨てて一目惚れした男と結婚なんて…と、離婚した自分たちと同じ過ちを繰り返してほしくないふたりは結婚阻止を企てることに。果たして彼らはリリーの結婚を止めることができるのか!?」というお話。

スー:海外旅行に飢えたビーチリゾート大好きな人たちの心を掴むにはバッチリの作品だと思う。そして何よりも、主演がジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツっていう豪華さ!

高橋:しかも、『フォー・ウェディング』(1994年)、『ノッティングヒルの恋人』(1999年)、『ラブ・アクチュアリー』(2003年)など、数々のラブコメクラシックを送り出してきたワーキング・タイトル製作だからね。期待するなって方が無理な話!

スー:ね。期待が高まるってもんよ。それにしてもジョージと言えば『素晴らしき日』(1996年)『かけひきは、恋のはじまり』(2008年)、ジュリアと言えば『プリティ・ウーマン』(1990年)『ノッティングヒルの恋人』などなど。いろいろなラブコメ作品に出演してきたけど、そのふたりが離婚して殺伐とした元夫婦関係になり、唯一の宝である娘の結婚式に参加するしないっていうのがあらすじになるなんて…わたしたちも歳をとったもんだわ。

ラブコメ ジョージ・クルーニー ジュリア・ロバーツ

高橋:ジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツの共演作といえばなんといっても『オーシャンズ』シリーズだけど、あのワケあり夫婦を演じたふたりが約20年を経てラブコメ映画で共演、しかも離婚した元夫婦役だなんて洒落が効いてるよね。

スー:ところでヨシくん。タイトルの『チケット・トゥ・パラダイス』ってどういう意味だと思う?

高橋:ダブルミーニングなんだろうな。憧れのリゾート地であるバリ島への旅行と、人生において新たな一歩を踏み出すこと、人生のパラダイスを求めていくことを重ね合わせているんだと思う。

スー:なるほどね。ジュリアが演じるジョージアが「人生において、楽しみを先延ばししない」って頻繁に言っていたよね。だから、娘のリリーはある意味、母親の言いつけを守っていたわけだけど、それにも関わらず両親から結婚を反対されるんだから…たまったもんじゃない。ま、両親の気持ちもわからなくはないけどね。

高橋:うん。逆にリリーの方が地に足が着いていたというか、愛のなんたるかをしっかりと見据えていた気がする。

スー:確かに。リリーのセリフ「愛されることと愛することは別なのよ」って、刺さったなぁ。

高橋:あれはグッときたね。娘を持つ身だけに、なおさら。

スー:おお。じゃあさ、もし自分の娘がロースクールに行って弁護士になることが決まったところで、卒業旅行先で知り合った男と突然結婚するって言ったらどうする?

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高橋:娘の意志を尊重したいと思いつつも、そこはなんだかんだリリーの両親と同じ行動に出てしまうかもしれない(苦笑)。

スー:なぜ反対するのか、親心を具体的に教えてくれる?

高橋:どうしたってひと夏限りのロマンスだと思ってしまうよね。まだ将来の展望が定まっていないのならともかく、子どもの幸せを考えるとせっかくの約束されたキャリアを一目惚れした恋人のために捨ててしまうことにはやっぱり抵抗を拭いきれない。デヴィッドとジョージアの場合、さらにそこに自分たちと同じ過ちを繰り返してほしくない、という要素が加わってくるわけだけど。

スー:人生において楽しみを先延ばしにしないっていう教えを娘に受け継がせた結果が、輝かしい未来を捨てて、バリ島での電撃結婚っていうのはなかなかの皮肉だね。

高橋:デヴィッドとジョージアはリリーに人生を指南していたつもりが、逆に彼女からその真理を突き返されたような格好になったわけだね。

スー:そうね。クラシカルというか、すごくオーソドックスな構成ではあった。あとさ、リリーがふたりに対して「わたしに向かってしゃべってるんじゃない。25年前の自分たちに向かってあなたたちは話しているだけ」っていうセリフ。あれもズキンとくる親が多いんじゃないかな。子どもを持つ親にとって、自分と同じ失敗をしてほしくないと思えば思うほど刺さる言葉だと思う。ところで、リリーを演じていたケイトリン・デヴァーって『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019年)の主演のひとりなんだね。で、リリーの親友レンを演じていたのがビリー・ロード。同作で超リッチな女子高生を演じていた子なんだよ。 

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高橋:うわー、めちゃくちゃ思い入れのある映画なのにまったく気づかなかった! ジョージやジュリアのような名優と共演するなんて、ふたりとも順調なキャリアを歩んでいるようでなによりだね。

スー:ぜいたくな悩みなんだけど、やっぱり、ジョージとジュリアが役者として大きすぎる! ラブコメを演じるには、周りの人たち全員を食ってしまうくらいの輝きがあって、そこは正直なかなか難しいと思ったね。

高橋:そのへんは脚本がジョージとジュリアに当て書きされたものであることも影響しているのかも。ふたりがスクリーンに映っているだけで十分間が持ってしまうというか、圧倒的な場の支配力がある。特に印象的だったのがホテルのバーのシーン、ジョージの長台詞は完全に引き込まれてしまったよ。

スー:うんうん、バーで離婚した理由を語るシーンは必見。くたびれたイケオジを演じるジョージ・クルーニーの渋い魅力が全開だった。

高橋:あのシーン、たぶん台本には「ジョージ、いい感じで語る」程度のことしか書いてないと思う(笑)。実際全編通してリハーサルはほとんどやっていなかったみたいだけど、ああいう演技は彼にとってお手の物でしょう!

スー:かもね(笑)。ちなみに音楽の使い方はどうだった?

高橋:パーティーシーンで「まだまだ若いもんには負けん!」みたいな感じでデヴィッドがDJに90年代のクラブヒットをリクエストするシーンがおかしかった。C+Cミュージック・ファクトリー「Gonna Make You Sweat」からRUN-D.M.C.「It’s Tricky (Jason Nevins Remix)」ときて、とどめにハウス・オブ・ペイン「Jump Around」。ジョージと90年代のクラブヒットといえば、『マイレージ、マイライフ』(2009年)には彼がヤングMCの「Bust a Move」で盛り上がるシーンがあったっけ(笑)。それはともかく、実際のジョージとジュリアはこのへんの曲を楽しんでいた世代よりはちょっと上なんだけどね。

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スー:そうね、彼らはその時でもだいぶ大人だっただろうし。「Jump Around」は、わたしたち世代にとっては何の理由もなくぶち上がっちゃうところはある。そんなクラブシーンとか、コロナ禍ということもあって撮影も大変だったらしいよ。今作、実際にバリ島で撮影したわけではなく、オーストラリアで撮ったんだって。バリ島の文化を表現するのにはかなり苦労したみたい。実はオーストラリアとバリ島ってそんなに離れていないのよ。パースからだと確か飛行機で3〜4時間で行けるはず。だからこそ、制作陣もバリ島に行けないっていうもどかしさがあったんじゃないかな。

高橋:監督のオル・パーカーは「パンデミックで一変してしまった世界には人々に喜びと明るさをもたらす作品が必要だ」と思い立って、それでこの映画を通して衰退の傾向にあるラブコメディの再生を試みようとしたらしい。ジョージとジュリアの激しいいがみあいは敢えて基本に立ち返ってスクリューボールコメディの古典『ヒズ・ガール・フライデー』(1940年)を参照したようだし、ラブコメの力を信じているという点においては僕らと同志といえるかもしれない(笑)。そんなラブコメ愛があるからか、このジャンルのお約束を丁寧に踏襲していたのには好感がもてたな。軽薄そうに見えていた男が実はちゃんと相手を思いやれるいい奴だったり。

スー:ジョージアの今カレのフランス人パイロット、ポール(リュカ・ブラヴォー)ね。いい味出してたよね。そんな彼も一緒に行った寺院。カップルで行くと呪われると言われている場所に娘カップルを連れて行くのは、ちょっと反則でしょ。それにしても寺院付近の自然が美しいったらなかったよね。あとさ、ジョージとジュリアのキスシーン! どうやら、ふたりはプライベートではすごく仲が良くて気の合う友だちだから、結構手こずったらしいよ。 

ラブコメ ジョージ・クルーニー ジュリア・ロバーツ

高橋:プライベートでも仲の良いビッグネームが歳を重ねてからタッグを組んだラブコメということでは、キアヌ・リーブスとウィノナ・ライダーの『おとなの恋は、まわり道』(2018年)を思い出したりもした。ヒュー・グラントとサラ・ジェシカ・パーカの『噂のモーガン夫妻』(2009年)だったりトミー・リー・ジョーンズとメリル・ストリープの『31年目の夫婦げんか』(2012年)だったり、大物俳優コンビが夫婦役を演じたラブコメと比較してみるのも一興かもね。

スー:ビッグカップルってだけで、圧倒されるのはあるよね。さっきヨシくんも触れたけど、今作はジョージ曰く「脚本は明らかに僕とジュリアのために描かれたもので、僕が演じる男がジュリアン、ジュリア演じる女がジョージアという名前だった。その後、夫の名前だけがデヴィッドに変更された」って何かの記事で読んだわ。ラブコメ映画っていうよりは、ジョージとジュリアの軽快なやりとりを楽しむ、コメディ要素の強い旅行映画っていった方がいいかも。欲を言えば、はちゃめちゃな時のジュリアってすごく魅力的だから、彼女にもっと弾けて欲しかったという気持ちはある。ところで、最後のデヴィッドとジョージアの決断はパラダイスに行けたってことなのかな?

高橋:リリーの決断も含めて、限りのある人生をどう生きるか、観衆に問い掛けてくるようなエンディングだったな。それなりに勇気が要求されることではあるけれど、冒険するのに遅すぎることなんてないんだよね。

『チケット・トゥ・パラダイス』

監督:オル・パーカー 
出演:ジュリア・ロバーツ、ジョージ・クルーニー、ケイトリン・デヴァー、マキシム・プティエ、ビリー・ロード、リュカ・ブラヴォー 
製作:アメリカ 
© 2022 Universal Studios. All Rights Reserved. 

PROFILE

コラムニスト・ラジオパーソナリティ
ジェーン・スー

東京生まれ東京育ちの日本人。老年の父と中年の娘の日常を描いたエッセイ『生きるとか死ぬとか父親とか』がドラマ化。TBSラジオ『生活は踊る』(月~木 11時~13時)オンエア中。

音楽ジャーナリスト・ラジオパーソナリティー・選曲家
高橋芳朗

東京都出身。著書は『ディス・イズ・アメリカ 「トランプ時代」のポップミュージック』『生活が踊る歌』など。出演/選曲はTBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』『アフター6ジャンクション』『金曜ボイスログ』など。

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