動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する連載。今回は、DC映画『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』から登場した性格最悪のヒーロー、ピースメイカーを主人公に迎えたスピンオフドラマ。
性格最悪の英雄が世界を救う!? 黒い笑いに満ちた傑作が誕生!!
このドラマの主人公ピースメイカーことクリストファー・スミスは「平和の使者」という名前とは裏腹に、目的のためならどんな非道な行為もいとわないゆがんだ正義感の持ち主で、ヒーローというよりはヴィラン(悪党)に近い存在だ。彼はまた男尊女卑の差別主義者で、身勝手な行動を繰り返す筋金入りの愚か者でもある。唯一の親友はハクトウ鷲のワッシー(ハクトウ鷲はアメリカの国鳥として知られている)。これらのことからわかるようにピースメイカーとは米国のある面を象徴する戯画的なキャラクターなのだ。彼を演じるのは、WWEの人気レスラーで俳優としても活躍するジョン・シナ。一見おバカでマッチョな白人男性の典型的外見を持つシナにとってまさに適役だが、同時に憎めない愛嬌と哀愁も感じさせ今作での彼はたまらなく魅力的だ。
さて、物語は負傷から復帰したピースメイカーが、刑期短縮を条件に極秘作戦に参加するところから始まる。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』など、ブラックなコメディ・センスで知られるジェームズ・ガン作品だけに、今作にも人種、政治、性差別などをネタにしたギャグが満載。人によっては不愉快にも思える悪趣味な下ネタも多いが、ふざけているように見えて登場人物たちは誰もがいたってマジメであり、笑いと暴力の陰には意外にも重い主題が仕込まれている。
そのキーとなる人物が、『ターミネーター2』の悪役で有名なロバート・パトリックが演じるピースメイカーの父親だ。さまざまな機能をもつ主人公の銀色ヘルメットの開発者でもある彼は、ネオナチを連想させる極度の白人至上主義者。ピースメイカーの偏った思想の根元が、この最悪な父親の存在にあることがわかるにつれて、主人公のことも単なる馬鹿者として笑えなくなってくる。彼はお気楽に思える言動の一方で父親と兄にまつわる過去の記憶に苦しめられている。ここで描かれているのは、虐待や洗脳が人に与える影響の恐ろしさなのだ。今作はアクションもたっぷりの最高の娯楽作だが、同時に一筋縄ではいかないテーマも含んだ重層的な傑作であると断言したい。
「ピースメイカー」
監督・製作総指揮・脚本/ジェームズ・ガンほか 出演/ジョン・シナ、ダニエル・ブルックス、ジェニファー・ホランド、ロバート・パトリック
DC映画『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』のスピンオフとなるHBO maxオリジナルドラマ。異色のヒーロー、ピースメイカーが地球外生命体を排除する危険な任務に挑む。U-NEXT「ピースメイカー」全8話独占配信中。
宇都宮秀幸
編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。