2022.04.02

【大人たちのプロ野球2022】金村義明「僕とパ・リーグと水島先生と」

今年1月に永眠した野球漫画界の巨匠・水島新司さん。氏が描いた野球愛と人情とロマンに満ちた古きよきプロ野球の情景は、まさに大人の観戦ライフのお供にもってこい。『あぶさん』に特別な思い入れを抱く金村さんと、「水島漫画」の魅力を探る。

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金村義明
1963年兵庫県出身。報徳学園高のエースとして’81年夏の甲子園で優勝し、ドラフト1位で近鉄入団。長く強打の三塁手として活躍。晩年は中日、西武でもプレー。

【大人たちのプロ野球2022】金村義明「僕とパ・リーグと水島先生と」

野球にまつわるリアリティと人間模様が水島漫画の魅力

―金村さんは水島新司先生とかなり縁が深いとお聞きしました。

 先生は熱狂的な南海ファンでパ・リーグ好きだったので、僕が近鉄に入った当初から目をかけてくれまして。ジャンボ仲根さんというキャラの濃い近鉄の先輩を通して当時のご自宅兼仕事場にお邪魔したのが最初です。以来、食事をご馳走になったりロッカールームまで激励に来ていただいたり。それこそ漫画に僕をよく登場させてくれましたし、結婚式まで出席いただいて。

―銀座デビューもご一緒だったとか。

 21か22の頃。実はそのとき銀座のクラブで「景浦安武が南海をクビになって『あぶさん』の連載が終わる」という話をされたので「やめさせないでください!」と。だって僕ら選手は『あぶさん』に登場するのも目標でしたから。それで僕の兄が阪急と阪神のテストを受ける話をしたら先生が「ひらめいた!」と。自由契約になった景浦は南海の入団テストに受かって再入団し、先生からは発案料としてお小遣いをいただいて(笑)。結果、ダイエー、ソフトバンクと、その後のホークスの歴史とともにどんどん話が続いて景浦は62歳まで現役でしたから。

―『ドカベン』では山田太郎が西武に。まさにパ・リーグ愛ですね。

 当時のプロ野球は巨人とセ・リーグが中心。同じような実力の選手でもあっちはスポンサーがたくさんついてこっちは上半身裸で素振りしてるみたいな。だからパの選手はみんなセには絶対に負けるなという気持ちで野球やってました。そこに愛情を注いでくれたのが先生。当然選手から慕われていましたし、先生がいつ球場に現れてもウェルカム。何より先生自身が反骨精神の塊で、巨人できちんと取り上げていたのは江川(卓)さんくらい(笑)。

―大人が今もう一度、水島漫画を読むことで味わえる野球の魅力とは?

 やっぱりリアリティ。『あぶさん』にも『ドカベン』にも実在する選手たちが出てきますし、先生自ら足しげく球場に足を運んで取材したネタが描かれているので。それに『あぶさん』で言うなら代打稼業に光を当てたり、二日酔いから酒抜いて打席に立って、終わったらまた居酒屋に直行、みたいな人間模様にも共感できるんじゃないですかね。しかし今季なんて先生が生きていたらもう大喜び。日ハムの新庄監督をめちゃくちゃ応援したでしょうし、南海時代を知る(藤本)博史もソフトバンク監督に。だから僕が先生に代わって、同じ時代のパ・リーグで戦った博史のアピールをしていこうかなと。


『あぶさん』&『ドカベン プロ野球編』

数ある水島新司作品の中で、プロ野球を題材にした最も有名な2作がこちら。酒豪のスラッガー景浦安武の渋みのある代打人生を描いた『あぶさん』(全107巻/小学館)と、山田太郎、殿馬、岩鬼、里中ら明訓高校の名手たちがそれぞれプロで活躍する『ドカベン プロ野球編』(全52巻/秋田書店)。

『あぶさん』&『ドカベン プロ野球編』

←主人公・景浦が入団テストを受ける話は『あぶさん』第29巻に収録。自身が居酒屋に現れるシーンを懐かしむ金村さん。

大人たちのプロ野球2022はこちら



Composition&Text:Kai Tokuhara

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