2021.12.08

『アイの歌声を聴かせて』ミュージカルを観て、違和感を覚えたことはありませんか?【語りたがる俺のための必修アニメ #03|吉田尚記】

クオリティの高さに驚かされるアニメ作品は数知れず。その中から、いま最も観て欲しい一本を紹介しよう。今回取り上げるのは、映画『アイの歌声を聴かせて』だ。

『アイの歌声を聴かせて』ミュージカルを観の画像_1

ミュージカルを観て、 違和感を覚えたことはありませんか?

『アイの歌声を聴かせて』ミュージカルを観の画像_2
ミュージカルで突然歌い出すヒロインやキャストたち。表現としてそのまま受け入れてしまいますが、「よく考えるとこんなことはないよな…」と普通なら思います。今回ご紹介するのは、このミュージカルの“異様さ”を逆手に取ったアニメ映画です。 タイトルは、『アイの歌声を聴かせて』。舞台は日本のどこかにある高校。教室で一人ぼっちのサトミのクラスに、謎の美少女・シオンが転校してきます。運動神経抜群で天真爛漫なシオンの正体は、なんとサトミの母親が開発した試験中のAI。シオンとサトミ、同級生らを巻き込んで物語は動き出します。 本作の原作・脚本・監督は『イヴの時間』『サカサマのパテマ』などを手がけた吉浦康裕さん。SFアニメ作品の天才です。彼が作るのは、いずれもアニメでないといけない映画ばかり。例えば『イヴの時間』のテーマは「人間とアンドロイドの見分けがつかない世界では何が起きるのか」。もし実写作品なら、アンドロイドは生身の俳優が演じなくてはいけません。すると、どこかで「この俳優さん上手だよね」などと意識してしまいますが、アニメならアンドロイドと人間を見分けがつかないよう等しく描ける。だからこそ生きる驚きが『イヴの時間』にはありました(こちらも大名作なので、ぜひ!)。 そんな吉浦さんが取り上げたテーマがAIです。シオンは、転校初日にサトミの前で突然歌い出しますが、場の空気を読まないAIならではの行動としてミュージカルのもつ“異様さ”にうまくハマります。シオンを演じるのは、俳優の土屋太鳳さん。人間とAIの見分けがつかないように描かれるアニメだからこそ、プロの声優さんとは異なる土屋さんの演技と圧倒的な歌唱力がいい意味で作品に馴染まず、AIという役の存在感を立たせています。 本作はミュージカルという独特な雰囲気の中で、AIであることが存分に表現されている作品です。AIが街のソーラーパネルや街灯などを歌い踊らせる壮大なミュージカルシーンは、ぜひ劇場で観ていただきたいです。

『アイの歌声を聴かせて』
原作・脚本・監督:吉浦康裕 
共同脚本:大河内一楼 
キャラクター原案:紀伊カンナ

2008年にアニメ「イヴの時間」で監督デビューした吉浦康裕が原作・脚本・監督を務めたオリジナルアニメーション作品。キャストは多彩な楽曲を見事に歌い上げた土屋太鳳のほか、福原遥、工藤阿須加、興津和幸、小松未可子、日野聡ら実力派が集結。

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吉田尚記
ニッポン放送アナウンサー。アニメやマンガ、アイドルに造詣が深く、「マンガ大賞」の発起人でもある。VTuberとしての顔ももち、アナウンサーの枠を超えて活躍中。



Text:Yoshito Tanaka

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