新連載スタート! ドラマ、映画、お笑いなどのポップカルチャーのレビューで人気のブログ「青春ゾンビ」のヒコが、“テレビ”について熱く語ります。
チェンメシ×ラジオが “好き”という感情を巡る青春劇に
このドラマの主人公である高村美園は、漬物会社に勤める平凡なOL。コミュニケーション力は低めで、いつもどこか居心地が悪そう。しかし、そんな彼女の生活に悲壮感はまるでない。なぜなら、彼女には愛を捧げる対象があるからだ。それはチェンメシ(どこの街にでもある、けっして特別ではない、でも欲さずにはいられない魅惑のチェーン店グルメ)である。CoCo壱番屋、松屋、餃子の王将、富士そば…すべての人に等しく開かれたグルメであるチェンメシを彼女は好きで好きでたまらない。どんなにささやかなものでもいい、何かを愛する気持ちというのは、このかくも生きづらい世の中をサヴァイブする術なのだ。しかし、美園が愛聴しているラジオ番組からこんな言葉が流れてくる。
何かを好きになる感情っていうのは、言葉にして誰かにちゃーんと伝えないと、心が麻痺してしまうらしいよ。 〈 中略 〉 怖い言い方してしまうけど、“好き”が死んでしまうんです。
“好き”という感情は、それを表現しないことには、死んでしまうのだという。自分が自分らしくあるために、美園は誰かに自分の“好き”を伝えようと決意する。コミュニケーション能力に自信のない美園だが、根っからのラジオ好きでもある。そこで、彼女は手軽なポッドキャスト配信という手段を選択することになる。
この番組は! 番組…でいいのかな? わたしが、〝わたしが好きなもの〟をいつまでも好きでいられるように始めました!
“好き”という感情は絶対に表明すべきなのだ。たとえそれがどんなに不格好であっても。チェンメシへの愛を思う存分に言葉にして、それをインターネットの海に放つ。美園が放った“好き”を、どこかの見知らぬ誰かがキャッチして、その熱に絆ほだされて、また誰かの新しい“好き”が生まれていく。そんなふうにして、この世界は成り立っているのではないだろうか。この「お耳に合いましたら。」というドラマは、テレビ東京お得意のグルメ×趣味のハイブリッドドラマと思いきや、丁寧な演出が光る“好き”を巡るエモーショナルな青春劇である。
主演を務める伊藤万理華のコロコロと転がる表情は抜群にキュートであるし、毎話ごとに登場するチェンメシや吉田照美などのラジオレジェンドも見どころ。実在のチェーン店が取り上げられているので、見た後はいつもの街が輝いて見えること必至だ。
「お耳に合いましたら。」
テレビ東京系にて毎週木曜深夜0時30分から放送中
出演:伊藤万理華、井桁弘恵、鈴木仁ほか
高村美園(伊藤万理華)は大好きな「チェンメシ」(チェーン店グルメ)を片手にポッドキャスト番組を開始。“おいしそうな配信”は徐々に反響を呼び…。
©「お耳に合いましたら。」製作委員会
ジェーン・スー&高橋芳朗 愛と教養のラブコメ映画講座
人気ブログ「青春ゾンビ」で、ドラマ、映画、お笑いなどのポップカルチャーのレビューを執筆。「10代の頃の自分が読んでも嫌な気持ちにならない文章を書く」ことが信条。