2021.08.05

【The OA】夏休みにみておきたい。大人たちがハマっている「極私的サーガ」4選

深遠なテーマや物語性を秘めた、心躍るような冒険譚にファンタジー、歴史物語…それが「サーガ」。現在は映画や小説だけでなく、メディアの多様化、ネット配信サービスの広がりに伴い革新的な“物語”が続々と生まれている状況。本編完結後もスピンオフ的に枝分かれするサーガ、ダークヒーローを描いたサーガ…今見るべき作品とは?

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あの人の極私的サーガ

ハンガーストライキまで起きた、未完の大作

萩原麻理さん(ジャーナリスト)
スピリチュアルでロマンティックなSF。ブリット・マーリングとザル・バトマングリッジによる作品にはキンとした冴えと、日常から「向こう側」をのぞきこむような感覚がある。二人にとって初のシリーズとなった「The OA」では7年間失踪した後、盲目だったのに目が見えるようになって戻ってきた女性をマーリングが演じ、謎をふりまいた。思考を求めるプロットながら、その周りには彼女を信じる高校生たちのエモーショナルな物語があり、何より身体性があるところがいい。象徴的なのが別次元へのポータルを開く「5つの動き」。コアなファンはそのハカのような動きを習得してネットで拡散した。そんな人気にもかかわらず、Netflixはシーズン5まで構想があった「The OA」をシーズン2でキャンセル。クリフハンガーで終わったせいもあって、本社前では抗議運動まで起きた。ファンは今も、何らかの形でミステリアスで長大なストーリーが完結するのを熱望している。

「The OA」 
Netflixオリジナルシリーズ『The OA』シーズン1~2独占配信中

衆人の目前で橋から飛び降りて救助された女性は、7年前に謎の失踪を遂げた少女プレーリーだった。自らを「OA」と名乗る彼女は、失踪中の監禁と、超常的な体験を語る。

妊婦の兵士が最前線で戦う、異色SFロマンサーガ

兎来栄寿さん(マンガソムリエ)
重厚で、濃密で、ディープなハードSFの世界観に浸りたい方には稀代のSF作家・白井弓子著『WOMBS』とそのスピンオフである『WOMBSクレイドル』を推薦したい。2017年のSF大賞にて、特別賞を受賞した庵野秀明監督の『シン・ゴジラ』を押さえて大賞に輝いた作品だが、掲載誌が廃刊になってしまったこともあり知名度が低いのが実にもったいない傑作だ。タイトルの「womb」は英語で「子宮」を意味し、胎内に異種生命を宿すことで特殊な能力を行使できるようになった屈強な妊婦たちが、前線部隊として活躍するという設定は唯一無二で斬新である。奇異に聞こえるかもしれないが、出産を経験した女性にしか描けないであろう真摯で切実ですご味のある内容に魂が揺さぶられてやまない。本編の『WOMBS』は全5巻で上質にまとまっている。そちらを読んだ後に現在連載中の前日譚である『WOMBSクレイドル』へと進むと、より深くこの世界を堪能できる。

『WOMBSクレイドル』 
白井弓子/双葉社webアクションにて連載中単行本(上・下巻)が9月12日発売予定。

舞台は植民惑星、碧王星。子宮に異星生物を埋め込まれ、不完全な転送能力を得た女性たちの戦いを描く。2017年にSF大賞を受賞したファンタジー作品『WOMBS』の前日譚。
© WOMBSクレイドル/白井弓子/双葉社

一度はついえたザック・スナイダーのDCサーガが甦る

今須勝地さん(カルチュア・パブリッシャーズ 劇場配給)
2017年公開の『ジャスティス・リーグ』は、それまでDCエクステンデッド・ユニバースを牽引していた監督のザック・スナイダーが諸事情で途中降板。不完全な状態での公開により、ファンの賛否は分かれ、興行も不発に終わった。以降DCは単作品ごとのクオリティアップを目指す方針へ転換。ザックが描きたかったDCにおけるサーガは雲散霧消したかに思われた。だが、彼のサーガは劇中のスーパーマンのごとく、HBO maxの配信作『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』として奇跡の降臨を果たした。約4時間の超大作である本作は、彼が本当に表現したかったことを提示し切った力作だ。ザックが語る神話としてのヒーロー譚のゆく末は、本作のために追加撮影されたエピローグでその一端を垣間見られる。このシーンを受け、今後のDCヒーローたちがどこに向かい、そして再集結したとき何が描かれるのか。新たなDCサーガの展開に胸が高まる。

『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』 
ダウンロード販売中/デジタルレンタル配信中ブルーレイセット(2枚組)¥5,980

スーパーマン亡き世界を舞台に、バットマンは世界を守る仲間を探し始める。当初、監督を務める予定だったザック・スナイダーによる本家本元エディション。 JUSTICE LEAGUE and all related characters and elements and trademarks of and ⓒ DC.Zack Snyder’s Justice League ⓒ 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

作品を超え、名タッグが描き続ける異種共栄のテーマ

宮田文久さん(編集者)
異種との共存は可能か? 哲学的な問いをハチャメチャにポップなタッチで突き詰めているのが、人気脚本家・中島かずきとアニメ制作会社・トリガーだ。両者のタッグによる最新作『BNA ビー・エヌ・エー』(吉成曜監督、2020年)は、人間に差別された獣人たちが集う都市・アニマシティが舞台だ。多様性がうたわれ、その困難もまた露呈している現実の社会に、「獣人」というモチーフを果敢にぶつけた快作である。異種の交わりへのこだわりは、トリガーの名を世に知らしめた『キルラキル』(今石洋之監督、’13~’14年)から引き継がれている。こちらは、人間と衣服が文字どおり融合するバトルものだ(キーワードは「人衣一体」!)。異なるもの同士の摩擦は、当然のごとく熱を帯びてゆく。その熱がエネルギーの奔流となり、アニメーションを次から次へと駆動させ、うねりを生んでいるように見えるのだ。彼らが異種混淆をアニメで描き続ける理由は、きっとそこにある。

『BNA ビー・エヌ・エー』 
Blu-ray & DVD好評発売中Netflixにて独占配信中

人間からの差別を逃れ、獣人が自由に生きられる「アニマシティ」。元人間でありながら突如獣人化してしまった影森みちるは、その町でオオカミ獣人・大神士郎に出会う。 © 2020 TRIGGER・中島かずき/『BNA ビー・エヌ・エー』製作委員会


Interview&Text:Masayuki Sawada

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