ファッションにこだわる人は、どんなクルマに乗っているのだろう? そんな興味から始まった、おしゃれな大人と愛車の関係を探訪する連載企画。2回目となる今回は、1960〜70年代にかけてビートル、ワーゲンバスとともに販売されていたタイプ3を愛車にするカメラマンの田邊剛さん。
購入の決め手はビートルと“ノリ”
田邊剛さんが1970年式のタイプ3こと「VW1600」(以下、タイプ3)を手に入れたのは、26歳のとき。きっかけはとある自動車販売店に展示されていた、同じフォルクスワーゲン(以下VW)が手掛けた「ビートル」だった。
「スタイリストの友人とロケハンで静岡へ行った時に、途中の幹線道路沿いの自動車販売店が目に入ってなんとなく寄ってみました。そこが国内外の古い車が並んでる良い感じのお店で。たまたま展示されていたビートルを見つけて可愛いクルマだなあと思っていたら、友人に似合うと褒められてその気になっちゃって(笑)。でも機材が載らなくて断念したんですけど…」
そんなビートルとの出会いがあった静岡からの帰り、東京・等々力に当時あったフォルクスワーゲン専門店に同行者とともに寄ったことが愛車との出会いとなる。
「たまたま展示されていた“タイプ3”が1970年から3年しか製造していない後期モデルでした。最初見た時に、“これなら機材が載るじゃん!”と思って(笑)。クルマに関する予備知識ゼロで何も知らなかったんですけど、入店後10分位で購入を決めてしまいました。似合うと言われた事と、当時クレジットカードを持っていない僕でもローン組めると言われて(笑)。今は、なぜクルマを購入したかと聞かれると“ノリです”と答えています(笑)」
想像以上の実用性とラゲッジ容量
思わぬ出会いで手に入れたタイプ3について、「話すことがあるかなぁ…」と心配していた田邊さんだがタイプ3への愛情は事欠かない。
「キャリアが付いた車両は珍しいのですが、ここはとくに気に入っています。また、このクルマのフロントは滑らかにノーズが落ちていた前期型とは違い、ロングノーズと呼ばれる鼻先が長いデザインなのですが、マニアには人気がないモデルなんですよ。販売しようにも売れないらしく…(苦笑)。でも、僕はこっちの間抜けに見えるヌケ感のあるデザインが好きです。街でタイプ3が走っていても、僕のクルマのほうが可愛いなと思いますし、やはり愛着があるのでしょうね(笑)」
その愛着は内外観へのカスタムはせず、できるかぎり純正パーツを活かしていることにも繋がっている。
「座席のシートを張り替えたことやフロアマットを変えた、あと消耗品を交換すること以外、サビだらけのバンパーなど含めて全体的にほぼ純正のままですね。いまだに悔やんでいるのは、荷物を載せるときに、うっかりいフロントガラスを割ってしまったこと。『West Germany(西ドイツ製)』と書かれたガラスが蜘蛛の巣状態になってしまい、アメリカ製の代替品に交換したのですが、オリジナルのガラスを失ったショックは大きかったです」
トラブルらしいトラブルは少ない
カメラマンという職業柄、気になるのがRR(リアエンジン・リアドライブ)でネックになるラゲッジスペースについて。エンジンの上に荷室を設けたレイアウトでの熱対策や不便を感じたことはないのだろうか。
「当初はスノコを敷いたり、フィルムの保管用にクーラーバッグを使ったりといった対策をしていましたが、結果的には問題なかったです。よく荷室にカメラ機材が収まるのかを心配されるのですが、後部座席はフラットになるため、フロントトランクを合わせると想像以上に荷物を積むことができます。多くの機材を積んでも、オーバーヒートしたことはないですね」
仕事に日常使いにと購入後からこの1台で賄っているとのことだが、やはり気になるのは古いクルマならではのトラブルについて。
「もともと丈夫なクルマだけど当たりの個体だった事と、メンテナンスをお願いしてるメカニックの方が良くて大きなトラブルはないです。細かいトラブルといえば、なんだろう……一度、ドライブシャフトが落ちて止まったことがあります(笑)。カメラマンという職業柄、年間10,000kmくらいは走行しますが、東京で一番距離を走っているタイプ3じゃないかと思っています(笑)」
これからも乗り続けたい
すでに半世紀の年月を得たビンテージカー。少なからず不安を感じることもあるようだ。
「パッキンの劣化や錆びが気になりますが、大々的にメンテナンスするとなると200〜300万円かかると言われてしまい…。クルマを動かすことに不安はないのですが、最近はさすがに2時間以上かかる距離への移動はレンタカーを使用しています(笑)」
そういいながらも、タイプ3との将来も見据えている。
「以前、VWタイプ2のオーナーと話をしたのですが、外観はサビだらけでボロボロなのに、車体の見えないところはちゃんとしていて。本当にボロボロの外観なのですが、オーナーいわくそれがこの車の過ごしてきた時間だから直さなくていいと。タイプ3もそういう方向で見えないところに手を入れて、潰れるまで乗るのもいいなと思っています」
田邊 剛/フォトグラファー
1981年生まれ。千葉県出身。写真家の富永よしえさんに師事。2004年に独立し、雑誌、広告、ミュージシャン、俳優などの撮影を手掛ける。デジタルでの撮影が主流の現在でもフィルムカメラを多用。2018年には俳優・坂口健太郎さんのファースト写真集「坂口健太郎写真集 25.6」(集英社)を手掛けた。
Text:Tsuyoshi Tezuka