かつてはファミリーカーの代表だった「セダン」。SUVとミニバン全盛の今ではすっかり絶滅危惧種だが、実はまだまだ魅力がたくさんあった。セダンを愛好するイラストレーター、遠藤イヅルさんがその魅力を語る。
セダンが「クルマの基本形」の時代があった
今や販売されるクルマのほとんどが利便性に優れたミニバンやハイトワゴン、SUVという時代に。もはや一過性のブームや流行ではありません。利便性に優れた車種も多く、ファミリーカーとしても最適です。
ところが、かつてはその役目をセダンが担っていました。セダンはクルマの基本形であり、各メーカーがセダンを用意していました。そのため、ファミリーカーにセダンを選ぶ人が多かったのは言うまでもありません。
そんなセダンですが、ミニバンやSUVといったユーティリティに優れたクルマに比べると、明らかに不利です。セダンでは大きな買い物をした際などは積み込めないことも。後席の空間が広いセダンでも絶対的な室内高は低く、スライドドアも持たないために、例えば車内で子どもの着替えや、狭い駐車場で子どもを抱えたままチャイルドシートに乗せるのは少々大変。
しかし、セダンにはセダンのよさがあります。筆者は過去に何台かセダンを所有し、現在も日産製のVWサンタナというネオクラのセダンを日常で乗っていますが、特に後席に美点が多いように感じています。ファミリーカーとして見た場合、広すぎないために後席にいる子どもとの距離が近く、荷室と車室が完全に分離していて静粛性に優れるので、家族の会話が弾みます。さらにセダンは基本的に車高が低く走行安定性が確保されており、カーブで車体が揺れないので山道走行中に子どもが酔うことが少ないのです。そして荷物が外から見えず防犯性が高いこと、乗り心地がよいこと、直感的に運転がしやすく長距離移動がラクなこともメリットに挙げられます。このように考えると、ファミリーカーでセダンに乗るという選択肢は十分にアリだと思うのです。
ファミリーにオススメな新車のセダン
では、ファミリーカーとしてどんなセダンを選べばよいのでしょう。セダンにはさまざまなサイズがありますが、子どもがいると荷物が増えるので、ラゲッジスペースの大きさは重要です。すると必然的に大きめのセダンが候補になるので、まずはホンダ・アコードをチョイスしてみました。2024年3月にデビューした11代目アコードは、高出力と低燃費を両立した2モーターハイブリッド、優れたハンドリング、最新の全方位安全運転支援システムが自慢。ラゲッジスペースは570Lの容積を誇ります。シンプルでクリーンなボディをファミリーカーとして乗りこなすのも一興です。
続いてはレクサス・IS。SUVが売れているレクサスでも、BMW3シリーズやメルセデス・ベンツCクラスに真っ向勝負を挑むスポーツセダンのISは健在。現在のモデルは2020年に大幅改良された3代目で、定評ある高い操縦性に加え、レクサスらしい高級さと世界観もしっかり有しています。マッシブな外観にファミリーカーの雰囲気はありませんが、あえてレクサスのセダンでファミリーカー、という意外性は面白いのではないでしょうか。
続いては、マツダのフラッグシップセダン、マツダ6を選びました。2012年登場の3代目アテンザを、2019年に世界統一車名の「6」に改名。厳密には2024年9月に生産・販売が終わったばかりですが、ここでは新車として扱います。高燃費かつ力強いディーゼルエンジン車が設定されているのも魅力です。マツダ6にはワゴンもありますが、セダンの流麗なフォルムと凝った面をもつデザインは今なお、かげることがなく、限りなく美しいファミリーカーというほかにない個性を得ることができます。
そして欧州からは、昨今のセダンとしては明確なノッチバック・スタイルが貴重なボルボ・S60を。安らぎある北欧デザインの洗練されたインテリア、そしてボルボの伝統ともいえる高い安全性は、ファミリー向けセダンとして高いポテンシャルを誇ります。
中古セダンは車種も豊富でリーズナブル
新車で買えるセダンを4台紹介しましたが、もう少し範囲を広げるべく、購入価格もグンと下がる2000年代以降の中古車も含むことにしましょう。まずはスバル・レガシィB4。同車は現在7代目を数えますが、その中から2009年発売の5代目を選択しました。大きなキャビン・高めの全高で車内は広く快適。ファミリーカーとしての資質も備えています。スバルが得意とする四輪駆動で高い走行安定性をもち、優れたグランドツーリングセダンとして秀逸です。
次は少し年式をさかのぼり、トヨタからツウ好みのセダンを2台ご紹介。1台目は、1999年に発売されていたプログレ。クラウン以上の高品質をコロナサイズに凝縮したセダンでした。運転のしやすさ・車内の広さなどから、2007年に生産が終わった現在でも高い人気を誇っています。落ち着きのあるシブいセダンですが、小さな子どもがいる若い夫婦が乗るという意外性は、大いに注目されるかも。
2台目は、トヨタを代表するミドルクラスセダンのカムリです。現行型は最近販売を終えた10代目。ここでは2006年デビューの8代目を取り上げますが、販売終了後10年以上がたった今でも古さを見せません。クラウンほどの高級車ではなく上級・上質な大柄の実用車という雰囲気で、車内の広さは特筆もの。ラゲッジスペースも504Lを確保しています。地味ながらも佳作、ゆったりと走ることが似合うセダンを家族の相棒として乗るのはいかがでしょうか。
ドイツからは、先代のフォルクスワーゲン・パサートを推します。こちらもカムリのような性格の良作セダンで、カッチリとした内外装は所有する喜びを与えてくれるでしょう。快適で広い車内、高い安定性・安全性など、ファミリーカーにふさわしい内容を誇ります。
ミニバンやSUVを買うのが当然の時代に、あえてセダンを選ぶのはまさに逆張りの発想。しかし先ほど記したセダンの美点は、思いのほかファミリーカーに適しています。今やセダンをファミリーカーとして使う人は少ないと思いますので、他の人とかぶらないクルマに乗りたいという人にも向いています。ある程度子どもが大きくなったファミリーなら、よりセダンライフを楽しむことができるかと思います。
今回取り上げたほかにも、これがファミリーカー!?という意外性があるセダンはたくさんあります。これを読んだ人に一人でも多く「そうか、セダンっていいかもしれない!」と思ってもらえたら幸いです。
自動車全般に膨大な知識をもち、大衆車、実用車系のイラスト・記事が得意。VW サンタナ、日産 サニーカリフォルニア、ルノー ルーテシアを所有。