クルマの性格を知るだけなら一日乗ればわかるけど、せっかくなら日々生活の中でどう生きるかも知りたい。そこで、日頃からクルマに乗る物書きの二人が、スポーティなEVのアバルトと最高級のレンジローバーを長期試乗。最新のクルマと10日以上を過ごしてみて見えてきた刺激的な日々を、二人合わせて20000字のリポートでお届けします。
CASE 2|Range Rover PHEV
実家にもクルマはあった。しかし、父は運転をしなかった。母が運転して、近場を移動するためのもの。それが自分にとっての自家用車のイメージだった。高校を卒業してすぐに免許は取得したが、AT限定だったし、クルマを欲しいと思ったこともほとんどなかった気がする。都内の移動なら自転車で問題なかったし、当時の周りの友人を振り返っても、自分のクルマを買おう!みたいなテンションのやつはいなかったと思う。けれど、仕事を少しずつするようになってくると、同年代のカメラマンなどがクルマを手に入れ始め、そのあたりからだんだんとクルマを所有するということを意識し始めたかもしれない。そこから考えると、ここ数年の若者のあいだでのクルマブームっていうのは隔世の感がある。
何はともあれ、子どもがいて、40歳も過ぎた今、お酒が好きなこともあるので毎日クルマ移動っていうことはないが、自分の生活にクルマは必須なものとなっていて、今は4世代目レンジローバーの2020年モデルに乗っている。確か、現行のレンジローバーが少しだけ日本に入ってきたタイミングで手に入れたはず。その前はレンジローバーのイヴォークに乗っていた。自分はレンジローバーが好きだ。本格的なオフロード走行が可能でありながら(そんな機会はないのだが…)、上品で洗練された雰囲気。そもそも初めてレンジローバーを欲しいと思ったのは、’05年にリリースされた当時NYで大人気だったクルー、D-Blockの一員であるSheek Louchというラッパーがリリースした「Kiss Your Ass Goodbye」という曲のMVに出てくるのを見てから。明らかに不穏な空気を纏いながらも、洗練されていて渋かった。そして、当時のUSのHIP HOPのMVでよく使用されていた、とにかくデカい!ゴツい!みたいなものとは違い、とても上質なクルマなのだろうということもひと目で理解できた。その頃から、いつか自分も乗りたいなと思っていたので、40歳を目前にして、レンジローバーを購入したときは感慨深かった。
そして、今回このように試乗リポートを書く機会をいただいたので、ダメもとで現行のレンジローバーをリクエストしたところ、本当に借りてきていただけた(笑)。自分の設定したローンの残価設定からすると、もしかすると来年には乗り換えることになるかもしれない候補車種なので、非常に真剣なスタンスで10日間向き合わせていただき、リポートを書かせてもらおうと思う。
1982年生まれ。編集者としてファッションメディアに携わるほか、神保町のstacks bookstoreでオーナー兼ディレクターを務める。愛車はホワイトの4代目レンジローバーHSE。
10/15 Tue|真っ先にレンジを使いこなしたのは娘だった!?
自分が神保町で営んでいるstacks bookstoreまで自分のクルマで行き、店舗の業務を少ししたあとにご近所の編集部までクルマを受け取りに。マイカーは集英社ビルの地下で預かってもらうことに。少し寂しい感じもする。UOMO編集部の西坂さんが広報部まで受け取りに行ってくれた最新のレンジローバーとご対面。どうやら今回乗せてもらうのは、EVとガソリンを併用したプラグインハイブリッド(PHEV)という仕様らしい。正直、現在もクルマのことにはあまり詳しくないので、そういう併用したクルマが存在することも知らなかった。EVに関する説明をひととおり受けてからいざ出発。基本的にはマイカーとそこまでの変更点はなさそうだったが、いざ乗ってみるとやはり最初は戸惑いの連続! 何よりEVを運転することが初めてだったので、電気自動車特有といわれる、スーーーッとしたスムーズすぎる走り出しと加速には、だいぶ戸惑った。マイカーの排気量も3000ccとそれなりにあるが、その感覚でアクセルを踏むとすぐに前との車間距離がグンと詰まってしまって危ない。とりあえず、一般道で乗り心地を確かめながら、原宿で所用をすませ、渋谷で家族をピックアップし世田谷まで移動。クルマのサイズ感も普段とまったく変わらないのだが、少しこっちのほうが車高が高い。その分見晴らしもいいし、このレンジローバーというクルマがもっているクラス感を高めてくれている感じがした。
気になっていたピザ屋、Pizza Mafia Tokyoに到着すると、娘は後部座席についたモニターなどをひととおり触りながら機能を確認したみたいで、Wi-Fiに自分のiPadを接続して寛ぎながらアニメを観ていた。これがデジタルネイティブ世代か…と少し感心。
マイカーもSIMカードを差し込めばWi-Fiを使用できるようになると、購入時に説明を受けた気もする。車内でWi-Fiが使えると、簡易オフィスとしてもバッチリ機能するので便利かもしれない。レンジローバーの椅子の座り心地のよさも活かせるし。久しぶりに食べるピザは最高においしかったけど、お酒が飲めないのが残念だった。ナチュラルワインもよさそうなのを扱っていたのに。この試乗リポートがあるので、ここから10日間はお酒があまり飲めない日々が続きそうだな…。
帰りに駒沢のBOOKOFFに立ち寄り、版元で在庫切れになっていたホラー小説をいくつか購入。帰宅するとEVの充電が20%ほど減っていた。燃費がよいのか悪いのか、まだまったくわからない。契約している駐車場には充電ポートがないので、明日どこかで充電してみようと思う。
10/16 Wed|初の充電スポット探しに四苦八苦
基本的にはマイカーと同じ感覚で扱える現行のレンジローバー。ただ、試乗車はフルスペックみたいなので、「お~!」と驚くことがちょこちょこ出てくる。個人的に意外と便利かもなと思ったのが、停止時にドアを開けると、足元に電動のステップが出てくるというオプション。ただでさえ車体が大きいので、駐車した際に左右の車とのスペースがギリギリで扉が開けにくい!ということがよくあるのだけれど、このステップがあると、扉を普段のように開けなくても乗り降りしやすい。ちょっとの違いのはずなのに、不思議です。
この日は原宿で昼から打ち合わせ。せっかくなので、充電しながら駐車してみたいなと思い、ここなら充電できるんじゃないかな?という予想で、表参道ヒルズの駐車場に入ってみた。ここはもともとハイルーフ車が停められるスペースも多いので重宝していたのだけど、意外と充電スポットはなかった…。やはり都心といえど、検索しないとなかなか充電スポットには出会えないのかな。気を取り直して打ち合わせをし、TOKYO BURNSIDE にてやっていた田そば(もとは銀座にあった)のポップアップに行き、かき揚げ蕎麦をいただく。
打ち合わせ後、充電が残り10%くらいになってしまったので、少し焦る。けど、よくよく考えたら、充電がなくなったらガソリンで走ることになるだけなので問題ないのか。でも、せっかくだから充電もしてみたいので、代官山蔦屋書店の向かい側にある充電スポットまでクルマを走らせた。普段からよく通る道であまり気にしていなかったが、そこには確かに充電スポットがあった。1台分だけだけど。ここは急速充電のスポットのようで、駐車料金も別で必要になってくる。運よく空いてたので、早速30分の急速充電! 会員になったり、いろいろ面倒なのかなと警戒してたけど、スマホでQRコードを読み込んだら、すぐに流れは理解できて充電開始。最近、スマホを持っていることを前提としたものが本当に多い気がする。もはやスマホってインフラ以外の何物でもないと思う。スマホを持っていなくても利用できるんだろうけど、手軽さがまったく違うんだろうな。今の日本のインフラって、コンビニもそうだけど民間企業が提供しているものが多い。蔦屋書店をぶらぶらしながら充電待ち。終了すると充電は40%くらい増えていた。料金は1595円。前述したとおり、駐車代も300円必要なので、合計1895円。これは燃費的にどんなもんなんだろう…。
今日は首都高も走ってみようと思い、神保町まで。高速だと充電の減りが早いという話を聞いた覚えがあるので、ガソリンで走るエンジンモードに変更。走行中でもボタン一つでモードを切り替えられるのはすごい! エンジンで走らせると、やはりお馴染みの走り心地で安心する。滑らかなんだけど、すごいパワーを秘めた感じ。それに、これは4.4LV8エンジンを搭載しているので、やはり出力が違う。100㎞/hまでわずか4秒で加速して、最高速度は261㎞/hとのこと。日本の公道ではもちろん宝の持ち腐れだけど、洋服もそうであるようにオーバースペックにはロマンがあると思う。
10/17 Thu|高速道路で上質な乗り味に浸る
自分が普段からレンジローバーに乗っていて、いいなと思うのはやはり長距離の移動のときだ。娘を連れての移動の際は、大阪くらいの距離であれば新幹線ではなくクルマを選んでしまう。新幹線に乗るのは大好きなのだが、前後の移動や、現地を乗り慣れたクルマで移動できるということを考えると、やはりマイカーが楽なのだ。そして、そういうときにレンジローバーの過ごしやすさや長距離走行の際の安定感というのは、本当に助かる。地方に行くときにも、目的地までの間に気になるリサイクルショップを回ったり、古本屋に寄ったり、美術館やギャラリー、ご当地スーパーなどを回る際にも、トランクが大容量なのでわりと気軽に物を買うことができる。そういうタイミングでなんとなく集めていったものが、お店で使えたり、ポップアップの際に商材になったりもするので、いい意味で遊びの延長線上に仕事を置くことができているのかもしれない。せっかく現行のレンジローバーを借りていることだし、この期間中もどこかに行ければいいのだが…都内の狭い道路を走っているだけだと、このクルマの真価はあまりわからないだろうから。
この日は、横浜に引っ越した母の家に置いてある荷物から、次の撮影に必要なものをピックしなくてはいけないので、高速道路での走りを楽しめるかなと、少しワクワク。どうせなら首都高経由ではなく、大好きな第三京浜道路を走ろう。第三京浜以上に走っていて気持ちのいい有料道路はないと思う。確か10年くらい前に値上げしたけど、それでも今もなお安いし、走りやすい。
滑らかでありながらもエンジンの力強さを感じるレンジローバーの走りっぷりはやはり最高。現行モデルでは、オールホイールステアリングを標準装備し、高速走行時の優れた安定性と低速走行時の俊敏性がきちんと両立されているそうなので、より快適。これはすごいな~。ちなみに、縦列駐車の際も、現行のレンジのほうがスムーズに停められる気がしていたのだけど、それもこのオールホイールステアリングというシステムのおかげらしい。後輪が前輪とは逆方向に最大7.3度も切れてくれるので、限られたスペースでも容易に駐車できるとのこと。
第三京浜に入ったらエンジンに切り替えようと思っていたのだけど、いつの間にか充電は一桁に! 充電の減り、想像以上に早い!! 確か保土ヶ谷のパーキングエリア(下り)には、充電器があったはず。急速か普通かは記憶にないけど、とりあえず行ってみる。記憶どおり、充電スポットはあった! 運よく空いてたけど、ここも代官山のところと同じくスペースは1台分だけ…。普段から常に時間の制約がないという人も少ないだろうし、ピュアなEVだったらと考えると結構不安だな。何はともあれ、充電スタート。幸いにもここも急速だった。30分時間が空いたので、PAの外のベンチと椅子を使ってメールの返信を。こうやって時間を強制的に生み出してくれるのは、EVのよさでもあるのかなと思うけど、やはりすごく忙しいタイミングだとつらいのかな。そんなふうに30分の足止めすら嫌になってしまうような自分のマインドがよくないのかも。途中、関内のボトルショップなどにも立ち寄ってみたが、路地裏の細い道はやはりヒヤヒヤする。でも、ステアリングの進化によってだいぶ運転はコンフォタブルになった。アフロタコスに寄って、タコスとビールでひと息つきたかったけど、それはかなわぬ夢。自分のような酒好きのドライバーは、完全自動運転システムの実現をみんな願っているのではないだろうか。マイカーにもこのクルマにも、ドライバーアシスタント機能というのはついているはずだけど、よく理解してないので一度も使用したことがない。誰か詳しい方に教えてもらいたいです…。
10/18 Fri|EVよりPHEVが安心なワケ
午前中から某誌の“本棚特集”号にて取材を受ける。自宅にはもう片づけようがないくらい本があふれているので、特にいい感じに見せる努力もせず(できず…)、ありのままの本棚と積み上げた本のタワーを撮影してもらう。店でも新刊本をたくさん仕入れているので、もちろん新刊本も購入するのだが、やはり大学時代からの趣味であるBOOKOFF巡りの中で手に入れた本はとても多い。目的地の周辺のBOOKOFFを探すのはいくつになってもやめられないし、やめる気もない。
取材を受けた後、渋谷、原宿で打ち合わせ。タイミングよく発見できれば、駐車の際に充電も!と思っていたが、まったく見つからなかった。やはり検索せずに、行き当たりばったりではダメなんだろう。自分の駐車場では充電をできないので、急速で充電をしても、わりとすぐに充電切れ状態になってしまう。EVでの走り心地をもっと体験したいのだけれども、なかなかうまくいかないもんだ。打ち合わせを終えてから神保町まで移動。246から皇居沿いを通るコースで。皇居周辺は道が広々としていて、好きなドライブコース。お店に入荷している新刊本やワインの整理をする間に、今度こそ充電だ! Googleで近辺の充電スポットを検索すると、いつもお世話になっているカフェ、DILL Coffee Parlorのすぐ近くに2つあった。いずれもコインパーキングの中にあるタイプのようで、空いてるといいな~と祈りながら、まずは最寄りの場所へ行くも、すでに先客が…。けど、よく見ると先客は単に駐車しているだけで、充電はしていない様子。まあこういうこともあるよなと気を取り直して、2つ目のコインパーキングに。到着するとわりと大きめのコインパーキングで、どこに充電スポット付きの駐車スペースがあるのかが一見してもわからない。奥まった場所に充電スペースを発見。今度は空いてた! しかしここは急速充電ではなく普通充電のようだ。でも、駐車している限り充電し続けられるみたいなので、いざ開始。
お店に戻り、店をやっているといろいろなところからお客さんがやってきてくれる。その中からさまざまな出会いが生まれる。この日は日本でつくった緑茶や紅茶をLAで売ろうとしているという方が来てくれた。水出し緑茶をその場で試飲させていただいたがおいしかった。そうこうしているうちに3時間30分ほど経過。クルマを出してみると、充電は半分ちょいに回復。急速じゃないと相当充電に時間がかかるな。でも自宅にあれば、夜間に充電しておけば100%に回復するということか。充電用コンセントの設置は、工事費を含めて10万円くらいが目安らしいので、そう考えると近場を乗り回すだけならEVというのもいいのかもしれない。でも、完全なEV車だとやはり地方を回るときとかは難しいのかな、という懸念は拭えない。そう考えると、ガソリンと併用のPHEV仕様というのは現状の最適解な気がする。